君を想うとき 1 噂の転校生 『あ、慎二?』 『謙吾さん、どしたんすか?』 『来週、お前の学校に転校生行くから。』 『はぁ・・・それが、どうかしたんすか?』 『聞いて驚け、ジンヤさんの娘だよ?』 『え?!ジンヤさんて・・・あの、ジンヤさんすか?!』 『そう。あの、ジンヤさん。だから、まぁ・・・楽しみにしてろよ?』 『わかりました!!電話、ありがとうございます!!』 『おう。じゃあ、また近いうちに走ろうな!』 「ちょ、お前、見た?職員室にすっげー可愛い子いたの!」 「え?!マジで?転校生かなー?」 「だろ?何組になんだろうな?」 そんな男子生徒の会話を耳に入れつつ、面倒くさそうに教室に向かう男が一人。 生徒達はみな、彼が通るときれいに端に避け、道を開ける。 綺麗に白金に染められた髪。着崩した制服。多数開けられたピアス。 整った顔立ちは、女の子の羨望を集めるも、その醸し出す雰囲気は近寄り難い。否。近寄りたくない。 この近辺の中学・高校に通う者なら一度は名を聞いたことがあるであろう、不良・神楽慎二。その人。 実際は、バカ騒ぎの大好きな心優しい青年・・・少しばかり、喧嘩っ早いが。 「おっはー!慎二!!」 「ああ、睦美か。」 その、名の通った不良にも臆することなく挨拶をするのは、柔らかいウェーブのかかった薄茶の髪が特徴で校内でも美人だと評判の秋保睦美。 慎二とは小学校の時からの付き合いである。ちなみに二人の年齢は中三。 「ねぇ、聞いた?転校生の話。」 「ああ・・・おい、どけろ。」 教室の入り口でおしゃべりしていた女の子達に抑揚のない声で言い放つ。 女の子達はビクッとして、それから慌てたように道を開ける。そして、睦美の姿を見て安堵にも似た表情を零す。 「慎二!もうちょっと優しく言ったらどうなの?それだから…。」 睦美はブツブツ何か言っているが、それを無視して慎二は自分の席に向かう。 「はよーさん。二人とも。」 「あ、勇哉!おっはー、聞いた?転校生の話!」 「おう。それで聞きたいことあって来たんだよ。なあ、謙吾さんから電話で聞いてんだろ?」 二人の教室に来て、今しがた声をかけてきたのは隣のクラスの城嶋勇哉。 慎二の親友で、頭脳・体力ともに校内の三本の指に入る男。外面はいいが、内実は仲間以外には酷く冷たい。 「・・・ああ。」 「え?何の話?」 「転校生。例のジンヤさんの娘、って話だぜ?」 「ジンヤさん、て・・・あの伝説とまで言われた?」 「あぁ、なあ慎二?かなり気にならね?」 「・・・そうだな。」 「あ?どしたよ?機嫌悪くね?何かあったのか?」 「横山の野郎がまた問題を起こした。」 イライラした口ぶりでそう言った慎二に、勇哉も苦い顔をする。 「またかよ・・・で?今度は何?」 勇哉も渋々ながら、でも聞いておかなければならないと、そう言葉にした時。そこでチャイムが鳴った。 「・・・チッ、また後でな。 」 勇哉が教室を出てから、程なくして担任がやってきた。 「ほら、HR始めるから席につけー。」 担任の声にみんなバラバラと席に座っていく。その様子を見ながら睦美がそっと口を開く。 「転校生も・・・喧嘩強いのかな?」 「さぁな。どうだろうな。」 そんな二人の会話を他所に、担任は話を進め、扉の外に向かって入って来いと声をかける。 程なくして、扉が開き、女子生徒が入ってきた。すると、教室内が一気にざわめき出す。 肩下まで伸びた髪は綺麗な茶色で、大人しそうな、しかし可愛いと誰もが思う容姿。 教室の中程、教卓の横に立つと担任に促されて挨拶をした。 「桐島斗和子です。これからよろしくお願いします」 その容姿に反して、斗和子は素っ気無い挨拶だけ済ました。それに少しだけ睦美は興味を示す。 ラッキーなことに、転校生・斗和子が座るであろう空席は自分の右隣。 「ねぇ、可愛い子じゃない?素っ気無いトコが気になるし。」 「・・・」 「?もしもし?慎二、聞いてる?なに、惚れちゃった?」 「あ?ちげぇよ、バカ。」 「バカとは何よ、バカとは」 そんなやり取りをしている内に、担任が睦美の名を呼んだ。睦美はヒラヒラと右手を振ってみせた。 斗和子は真っ直ぐ前を向いて、睦美の隣の、指定された席まで歩いてきた。隣まで来たことを確認して睦美が口を開く。 「秋保睦美。よろしく、睦美でいいから・・・可愛い顔して素っ気ないね?」 「よろしく、あたしも斗和子でいいよ。よく言われる。」 クスクス笑っていった睦美に斗和子も少し微笑んで返した。 休み時間になると大変だった。他のクラスの人間もその噂の転校生を見ようと斗和子たちのクラスに押しかけた。 基本、煩くされることが苦手な斗和子は見るからにげんなりしていた。それを見かねた睦美が声をかける。 「大丈夫?斗和子・・・てか、見てわかんないの?アンタ達も、斗和子げんなりしてるじゃない。ほら、散った散った。」 ザワザワ文句を言いつつも、睦美が慎二と仲がいいので、みんな散っていく。 「・・・ありがとう、助かったよ。」 「いいの、いいの。隣で煩くされるのウザいし、あたしがゆっくり話したかっただけ。」 そう言って、パチリとウィンクしてみせた睦美に斗和子もクスっと笑って見せた。 「あら、やっぱり可愛いじゃない。そうやって笑ったら。」 「睦美も可愛いよ?」 顔を見合せてクスクス笑いあう。彼女とならいい友達になれそうだ、とお互いが思った。 次の休み時間に、勇哉が教室にやってきた。睦美の隣にいる見慣れない顔に、噂の転校生か、と確信する。 「よお?アンタが噂の転校生?俺、隣のクラスの城嶋勇哉。」 「桐島斗和子。」 「お?素っ気無いねー、気に入った!ところでアンタ・・・」 「アンタじゃない。斗和子 」 その様子に睦美は笑い出す。勇哉も一瞬、面食らった顔をして次の瞬間には笑っていた。 「じゃあ、斗和子。お前、夜霧のジンヤの娘ってホント?」 その勇哉の言葉に、今まで黙っていた慎二も斗和子を見た。その視線に、斗和子も慎二を見やる。 「・・・神楽慎二。」 「あぁ、あんたが。」 斗和子の言い方に、一瞬だけ慎二が視線を鋭くした。しかし、斗和子はそんな視線など何とでもないという風に勇哉の問いに答えた。 「いかにも?夜霧のジンヤはあたしの父親だけど。」 その答えに、勇哉はヒュ〜ッ♪と口笛を吹いた。 「謙吾さんとの関係は?」 「・・・兄と妹・・・?」 「疑問系なんだ?」 「うん。そんな感じなだけだからね。」 「ふ〜ん・・・。」 「睦美と彼らの関係は?」 「慎二は小学校の時からの腐れ縁。勇哉は慎二の親友で、それ繋がり。」 「なるほど。じゃあ、城島と・・・神楽の、謙吾との関係は?」 それには勇哉ではなく慎二が答えた。 「俺が、連合の頭やってて謙吾さんは俺の二人前の頭だから、元はそれ繋がり。けど、夜霧にも出入りさせてもらってる」 「へぇ〜。そうなんだ。」 「あ!」 勇哉が突然、声をあげた。 「どしたの?勇哉」 「いや、ジンヤさんの話も聞きたいとこだけど、朝の話。横山がどうしたって?」 「ああ・・・また、他校の女を輪姦 したらしい・・・。んで、俺にどうにかしてくれって苦情が来た。」 「アノ野郎、次から次へと問題起こしやがって」 「・・・斗和子?」 「なに?睦美」 「横山雅紀、ウチの学校の会長には気をつけてね?」 「・・・?うん、わかった。」 「・・・それよか、今日の放課後、斗和子の歓迎会でもしね?どうよ?」 「いいんじゃないか?桐島がいいなら」 「あたしも賛成ー!どう、斗和子?放課後、大丈夫そう?」 「うん、平気。」 「んじゃ、決まりな!俺、そろそろ戻るわ。また放課後!」 こうして、勇哉の提案により放課後、斗和子の歓迎会をする事になった。 2010/01/15(20060621) → 君を想うとき TOP |