君を想うとき 2 放課後のファミレス 「・・・それよか、今日の放課後、斗和子の歓迎会でもしね?どうよ?」 「いいんじゃないか?桐島がいいなら。」 「あたしも賛成ー!どう、斗和子?放課後、大丈夫そう?」 「うん、平気。」 「んじゃ、決まりな!俺、そろそろ戻るわ。また放課後!」 そんなやり取り通り、放課後は桐島の歓迎会になった。 今朝登校してみたら、校内では転校生の話題で持ちきりだった。 すごい可愛いだの、何年生だの、何組になるだの、…はっきり言ってそんな噂話はどうでもよかった。 とにかく、早く話してみたくて…自分で、陣夜さんの娘がどんな奴か確認したかった。 放課後、勇哉の提案通り、俺達四人は桐島の歓迎会をするために学校からそう遠くないファミレスに来ていた。 席は窓際のボックス。窓側に睦美と桐島が座って、睦美の隣に勇哉が先に座ってしまったから、必然的に俺は桐島の隣。 とりあえず、飲み物やら食べ物やらを注文して落ち着いたところで口を開いたのは、睦美。 「さて…なんで、斗和子はこの微妙な時期に転校してきたの?」 テーブルの上に身を乗り出してそう言った睦美の言葉に、そういやそうだなー、と思いながら俺も桐島を見る。 「え、あー…陣夜が、」 「えっ?斗和子、陣夜さん父親だろ?なんで呼捨て?」 この微妙な時期…六月に転校してきた理由を話そうとした桐島に、勇哉が疑問の声を挙げて口を挟んだ。 ったく、人の話は最後まで聞けよ。 「あー、あの人父さんて呼ばれるの嫌いなの。俺はまだ若いから父さんて呼ぶな、名前で呼べって。」 軽く笑いながらそういう霧島に俺は、可愛いなーなんてどこか違うことを思っていた。 「で、この時期に転校してきた理由は、陣夜が今のあたしの歳で母さんと出会ったから。」 「「「はっ?」」」 思わず、その桐島の言葉に俺達三人の声が重なる。 「桐島…」 「斗和子でいいよ、あたしも慎二って呼ぶし。」 「わかった…。で、今のって…正確な理由とは思えないんだけど…」 「それが、正確な理由なの。母さんと出会ったのが、今のあたしと同じ歳で、しかもこの校区だったんだって」 思わず、俺と勇哉は視線を交わらせた。何だかなぁ…。 「じゃあ、何?斗和子パパのジンヤさんは、斗和子にも此処で同じような出会いをしろってことで転校させたっていうの?」 睦美が、今の斗和子の言葉を受けて結論を述べた。…何だか、俺の中の陣夜さん像が崩れた気がする。 「お待たせしましたー」 ウェイターが注文したものを運んできた。それぞれの目の前に注文が置かれて、ウェイターが去ったところで斗和子が口を開いた。ウェイターがいると話し難いのはみんな同じらしい。 「うん。そういうこと。」 「うわー、陣夜さんてもっとこう、硬派なんだと思ってた」 俺と同じことを勇哉も思ってたらしい。なぁ、と言って俺を見てくる。 「そうだな…。」 「昔はそうだったみたいだけどね、母さんと一緒になってあたしが生まれてから変わったみたい。正 さんが言うには。」 「正さんて?」 「陣夜が夜霧にいた頃からの親友。あ、十番街ってラーメン屋わかる?あそこの跡取りだよ。」 「えー!ほんとに?あたしの家、あの近くよ!」 「え、ほんとー?」 女ってどうでもいいことで盛り上がれるからすごいと思う。 「そういえばさー、慎二、」 家の話で盛り上がっていたと思えば、いきなり俺の名前を呼ぶ睦美。俺は何事かと口を開く。 「なんだよ。」 ニヤニヤしながら俺のことを見てくる。…こういう顔をする睦美は絶対、何か変なことを言い出す。これはガキの頃から友達やってるからわかること。 「今朝、斗和子が教室に入ってきて挨拶し終わるまで固まってたわよね?惚れた?」 ほら、言わんこっちゃない。朝だって同じことを言ってきたはずだ。って、勇哉も便乗してニヤニヤしだしたし。 「お前さ、朝も同じこと言ってなかったか?」 「そういえば、そうねー。でもいいじゃん。斗和子はー?慎二と話してみてどう??」 「え?話してみて?」 そう言うと斗和子は俺を見てきた。…背丈違うから、座ってても上目遣いになるんだよなー…。やっぱり可愛い。 「見た目と違って、人懐っこいんだね?謙吾が可愛がるのわかるかも」 「すごーい!斗和子、よくわかってる。慎二、見た目こうだし喧嘩っ早いから恐がられてるけど、人懐っこいし、ほんとは優しいの!」 「そうだぜ?すげえな、一日でわかるなんて!」 お前ら二人して何が言いたいんだよ、そんなにニヤニヤ・・・いや、ニタニタして。 「で?慎二はー?」 …勇哉、お前、後で覚えてろよ…。 「話しやすいし…可愛いと思うけど?」 「ありがとう」 俺の言葉に斗和子は素直にそう言って、微笑んだ。…俺は誉められてもそんな素直にありがとうなんて言えねぇ。 「え、なになに、二人とも好感触?これはいいんじゃないですかね?勇哉さん」 「そうですね、睦美さん」 「いや、何言ってんの?二人ともー。」 勇哉と睦美が馬鹿言ってるのに、斗和子はサラッと突っ込んでる…けど、俺の気持ち的には…。 「ねぇ、慎二?慎二もそう思うよね?」 「あぁ…けど、俺、斗和子のこと嫌いじゃない 」 「え…?」 「ちょっ、マジなの?!慎二?!本気で、斗和子に一目惚れ?!」 「睦美、興奮しすぎだぞ。他の客の迷惑だ」 俺の発言に興奮したような睦美を勇哉が宥める。確かに、他の客の視線が痛い。ただでさえ、俺と勇哉のナリがこんなんだし。 「あぁ、ごめんごめん。でも、そっかぁ。嫌いじゃないかー、…斗和子は?」 「え?あー…まだわかんない」 そう言って、俺をチラッと見る。俺は自分でも珍しいと思うけど、フッと微笑んでやった。 と、微妙に斗和子の顔が赤くなった気がした。…意外と慣れてないのか? ―チャラ、チャラチャラチャラ〜 「あ、ごめん。あたしだ …もしもし?」 急いで電話に出る斗和子に、俺も勇哉も睦美も黙る。さすがに転校初日から、連れ回すのはよくなかったか? 「なに?どうしたの?」 『いや〜、初日どうだった?慎二と勇哉には会えたか? 』 「会えたもなにも、今一緒に居るけど? 」 そう言って斗和子は俺と勇哉を見る。…誰だ? 『マジで?えー、お前らどこにいんの?俺も行っていい? 』 「ちょっと待って 」 斗和子は携帯を離して、俺達に向きなおる。 「謙吾が、合流してもいいか?だって 」 「え?謙吾さん? 」 「俺はいいけど? 」 「あたしも。まだ会ったことないしー。 」 俺達の反応を確認して、また携帯を耳元に当てる。 「いいけど。一人知らない女の子もいるから。学校の近所のファミレスにいるよ。 」 『オーケー。あと五分もしないうちにつけると思う 』 「うん、わかった、じゃあ後でね 」 通話を終えた斗和子は携帯をしまいながら、話す。 「あと五分くらいしたら来るって。 」 「え?早くない? 」 驚いたように言う睦美に勇哉が、バイクだよ、と教えてやってる。そんな二人を見てたら、視線を感じて。 「なに? 」 「え、いや、ううん、何でもない 」 恥ずかしそうに、そっぽをむいてしまった斗和子に俺は、この時既に特別な感情を持ち始めていた。 2010/01/15(20060714) ← → 君を想うとき TOP |