煌く綺羅の夜 -第二章 二つの喜びと一つの迷い-


「えっと、お部屋はここです……くわしいことは煌瑚さんに聞いた方が…」
「ありがとう。…そういえば、君の名は?」
「海緑蓮花です。あなたは…」
「…レイ=ヨーシュ。よろしく蓮花さん」
ヨーシュは右手を出そうとしたようだが、すぐ気付いて左手を差し出した。
蓮花は少々照れながらも、彼の手を握った。
「お互い他所者同士だし、仲よくしようか」
「はいっ」
と蓮花が弾んだ返事をするのを見てから、ヨーシュは部屋に入っていった。
いつの間にか背中にくっついている天紅に向かって彼女は言った。
「なんだか、優しそうな人だったね」
天紅は答えなかったが、蓮花は気にせず、扉の近くの壁に身を預けた。
慌てて天紅が移動するのが気配でわかり、蓮花は天紅を胸に抱いた。
「……あれ?」
天紅の丸い大きな瞳を見つめかえして、蓮花は小首をかしげた。
「あの人、なんで私が村の人じゃないってわかったんだろ…」
天紅はそんな蓮花をまねて、小さな頭を少し傾けた。

二人がいってから、すぐ後に勢いよく扉を開閉した者がいた。
それはなぜか汗だくになっている鎧綺だった。
「―くっそ、あのアマ…俺様をこき使うったぁどーゆー…」
「お帰り」
「ただいま…って、へ?」
鎧綺は恐る恐る声の主を探した。いや、探す必要はなかった。
彼女は真っ二つに折れたほうきの先端と、ほとんど棒としかいえない片方を持って無表情この上ない面立ちで立っていた。
「えぇっと…?」
「あの女って?」
「それは…」
「何よ」
「いや、ちょっ…何、そのほうき」
「何なのよ!」
「あっ…!ちょっ!!痛ぇ!!」
唐突なことだが、煌瑚はほうきの先端で鎧綺を叩きだした。
思わず悲鳴をあげてしまった鎧綺だが、後で彼は後悔しただろう。
「・・・痛ぇ?」
攻撃の手が止む。しかし、まだ殺気はやんでいなかった。
「姉に向かって、姉に向かって姉に向かって姉に向かって、痛ぇって何ッ!?」
「痛ってぇ!!痛い!痛いです!!お姉さぁん!!」
煌瑚は今度は棒のようなホーキで弟を全力で突きだした。

その時、もう一人の弟・由騎夜も帰ってきていたのだが、入り口での騒ぎを見て、そのまま中に入ると
兄の二の舞になると悟り、裏口からそぉっと入ってきたのだ。
ちょうどそこに、ヨーシュを部屋に案内してきた蓮花と天紅も戻ってきていた。
蓮花は、由騎夜に気づき、声をかけようとした。
その時!!
       ゴスッ
蓮花の目の前をほうきの先端が飛んでいき、先ほど宿屋の場所を教えてくれた親切な人の、一人の顔面に直撃した。
由騎夜は、そのまま倒れてしまった。
蓮花は、何が起こったのかわからずに、慌てふためいていた。
「甘いわよ、由騎夜」
煌瑚は鎧綺から目を離し、由騎夜に目を移した。
その隙に、鎧綺は姉の魔の手から逃げようとした。
が、煌瑚は逃がしはしなかった。
ほうきの棒をつき出し、鎧綺の鳩尾を思いっきりついた。
鎧綺は蛙がつぶされたような呻き声をあげながら崩れ落ちた。
「あ、あの…煌瑚、さん?」
蓮花は、呆然として煌瑚に声をかけた。
「あ、しまった……。こんな所に倒れられたら、お客の邪魔になるわね…。
 でも、私じゃ二人は運べそうにないし・・・。しょうがないわねぇ」
煌瑚は蓮花を無視してぶつぶつ呟いていたが、一つため息を吐くと蓮花に折れたほうきを手渡して言った。
「私はヨーシュを呼んでくるから、二人が起きたらこれで気絶させておいてね」


2010/01/26(past up unknown)


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