煌く綺羅の夜 -第六章 小波立ちて大波来たる1-


煌瑚は、カウンターに座っていた。
ひざの上では天紅が眠りこけている。
少し邪魔だが、かわいいのでそのままにしておく。
煌瑚は目を閉じた。
昨日の音≠ェ再度よみがえる。
あの後、煌瑚は、家を出て森へ行った。
森には、本能のままに生きる動物達しか、いないから。あらゆる意味で静か≠セったから。
ふと思い出す。家を出た直後に、ヨーシュに会ったのだ。何も言わなかったが。
ヨーシュに会ってから、少し心が落ち着いた気がしたのは、ただの気のせいだったのだろうか。
急に、ドアが開いた。
目を開けると村の女達―リーダー格の維眞祢音(ゆいまねおん)を含めて5人―が入ってきた。
「何の用?あなた達がうちに来るなんて、めずらしいわね」
煌瑚はにっこり笑って言ったが、目だけは冷たかった。
「めずらしく、お客が来たんですって?」
祢音は煌瑚を見下すように言った。
「それで…?」
聞き返しながら、煌瑚は耳をすました。
聞こえるのは、煌瑚に対する嫉妬の声。
「異邦人、ですってね。銀髪で、瞳は夜空色、ですって?」
「何が言いたいの?」
「その方、本当に、人間かしらね。もしかしたら、化物だったり、ね。あなたと同じ…」
祢音が言い終わる前に煌瑚は、すっと立ち上がった。ひざで眠っていた天紅はもちろん、ころころと転がり落ちた。
「それで、あなた達は何が言いたいの?」
もう、煌瑚の顔には笑顔は浮かんでいなかった。笑顔だけでなく、煌瑚の顔からはずべての表情が消えていた。
「類は友を呼ぶ、って言うけど、やっぱり化物には化物がよってくるのね」
「いやよね。そんなのが村にいるなんて」
「気味悪いわ」
「なんで村にいるのよね」
「本当、出てってほしいわよね」
女達は、好き勝手にぺちゃくちゃとしゃべりはじめた。
「群れてないと何も出来ないくせに、うるさいわね」
「な…」
「あなたの頚動脈…ここね」
煌瑚はいつの間にか、祢音のすぐそばまで近づいていた。
そして、祢音の首筋に指を当てていた。
「な……なによ…」
「ここをきれば、すぐに死ねるわ」
祢音は、いつもとどこか違う煌瑚に戸惑った。
「ただい・・・・・・ま・・・」
ちょうどどこへ、鎧綺が帰ってきた。
その途端、女達は黄色い歓声を上げた。もちろん祢音も。
煌瑚はいつの間にか、カウンターへと戻っていた。
「何やってん」
「鎧綺、その人達、仕事の邪魔だから連れてって」
煌瑚は鎧綺の言葉をさえぎり、にっこり笑って言った。
尋常ならざる雰囲気。
いつもの姉とは、何かが違う。
「何よ、どうせ客なんて来やしないのに」
毒づいた祢音は、鎧綺と目が合い、慌てて笑顔を作った。
姉が、一部の村の女達から疎まれていることを、鎧綺は知っている。
今回も今までと何ら変わりないように思えるのだが――。
「―とりあえず、外…」
玄関の扉近くに立っている鎧綺が、事を理解するより早く、
ばんッ、と
扉が勢いよく開いた――外から。
例のごとく扉は、鎧綺の顔面にクリーンヒットした。

  <第六章 終>


2010/01/26(past up unknown)


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