煌く綺羅の夜 -第八章 大波到来!?波乱の予感!?-


少し時間は前後するが…――由騎夜が出ていった後の宿屋――では、
鎧綺と蓮花がどうってことのない会話を続けていた。
案外、鎧綺も危なくないのかと思いきや、突然、隣に座っていた蓮花の手を取り、こう言った。
「蓮花ちゃん…俺と由騎夜とどっちがいい?」
「え?」
蓮花は突然、手を握られたことと質問の内容に疑問の声をあげた。
『どっちがいい』と言われても二人とも、自分によくしてくれるから答えられるはずがなく。
でも…一つ言えることがあるとすれば…鎧綺よりも由騎夜のほうが、蓮花には話しやすいということ。
「だからね、…俺と由騎夜、どっちが好き?」
と、そこへ勢いよく由騎夜が飛び込んできた。そして、二人を見て…
「…鎧綺…その手を今すぐ、離せ…」
由騎夜が発したその声は明らかに怒気を含み、いつもより低い。そして、怒りでほんの一瞬だが、普段の十倍以上の魔力が発せられた。
―酒場の二人の眉間にしわが寄ったのは、また別の話―
「ゆ、ゆきや…キレるなよ?」
そう言うと、鎧綺は蓮花から手を離し、急いで部屋へと戻っていった。
由騎夜の怒りはまだ収まってはいない。でも、蓮花の問いかけに冷静さを取り戻したように見えた。
「あの…由騎夜さん…?」
「あぁ…アイツに…鎧綺に何もされなかった?」
「え?」
蓮花の反応を見た由騎夜は、再び怒りをあらわにし、二階に昇って行こうとした。
だが、蓮花がそれを止めた。
「あの…由騎夜さん?私、別に何もされてませんよ」
「本当に…何もされていない?」
「はい、ただ…」
「ただ?」
「質問されて、答えに困っちゃって…」
(質問?何を質問したんだ、あいつ・・・)
「…何を…聞かれたのか、聞いてもいいかな…?」
蓮花は困ったように視線をめぐらせてから、答えた。
「えっと…鎧綺さんと由騎夜さんと、どっちがいい人かと聞かれて」
「……答えたの、かい?」
由騎夜の心臓はフル稼働である。
「私は…」蓮花が言いかけたときだった。
宿の扉がこんこん、と叩かれた。
続いて、若い娘の声が扉の外から聞こえてくる。
「夜分、すいません。失礼します」
「………………どうぞ」
もの哀しい気分で由騎夜はそう言うしかなかった。
キィ、と小さな音を立てて扉が開く。控えめに入ってきたのは若い娘だった。
亜麻色の前髪は長く、ほとんど顔は見えない――意図的にそうしているようだ。
地味な雰囲気の中で淡桃のエプロンが妙に浮いており、彼女は何となく不格好に見えた。
由騎夜を見た少女はびくついたが、蓮花の姿を見ると、ふっと肩から力を抜いた。
(……俺って、そんなに怖いのか…?…)
由騎夜の心境など露知らず、蓮花は少女に話しかけた。
「あのー、あなたは?」
「あっ…、その、ですね…えっと…鎧綺くんの弟さん」
「……はい?」由騎夜はきょとんとした。
少女は深々と頭を下げて言った。
「昼間は、姉が煌瑚さんにご迷惑かけてごめんなさい…姉に代わって謝りにきました」
「…姉?」
由騎夜は聞き返しつつ、考えた。はて、この子の姉とは誰だったろう――?
「―――あ、……維真 祢音か」
稚林ちはやです。弟さん…あの。これお姉さんに渡して下さい。お詫びです」
少女、稚林はあらぬ方向を見ながら由騎夜にもってきていたバスケットを渡した。
籠の布巾を開けると、中から焼きたてのパンが芳香を漂わせた。
「わー!おいしそうっ!!上手ですねっ…手作りですか?」
「えぇ。蜜柑を生地に混ぜてみました〜」
蓮花と稚林はほのぼのと笑いあった。しかし、はさまれた由騎夜はたまったものじゃない。
(息が…しづらい…!!)
「あの…弟さん」
「…はい?」
由騎夜は、せめて名で呼んでほしい―と思った。
「姉には内緒にして下さい。でないと、姉に怒られますので…」
「あ、ああ…わか」
きゅ―――、と高い音が彼の言葉を遮った。
二人の視線が集中した先で、蓮花は真っ赤になってうつむいた。
「ゆ、夕飯まだですし……、お腹空いちゃって…」
「あぁ、姉貴いないから…」
「あの、よろしければなんですけど…」
とろとろと提案したのは、稚林だった。
「何か、つくりますけど…ご迷惑ですか…?」
由騎夜は驚きつつ、蓮花の方を見た。
蓮花は目をきらきらと輝かせて、稚林を見つめている。
これは、素直に申し出を受けた方がいいだろうな――由騎夜は言った。
「じゃあ、頼んでいいか、な…」
「は、はい。じゃあ失礼します」
「手伝っていいですか?」
蓮花は稚林に尋ねた。
稚林は微笑んだようだった。前髪のせいでわかりづらいが。
「もちろん。助かります…あの、台所は…?」
「こっちです!」
蓮花は稚林と並んで台所へ向かった。
取り残された由騎夜は、とりあえずバスケットをテーブルに置いてみた。
「なんか、騒いでなかったか?」
言いながら階段を降りてきた鎧綺は、テーブルのバスケットに注目した。
「それ、稚林が持ってきたやつ?」
「…あぁ」
「パン?」
「…なんで知ってる」
「なんでって……」
階段を降りきって、鎧綺はテーブルに向かった。
布をめくりつつ、鎧綺は普通に言った。
「あの子さぁ、姉貴と自分の姉さんがモメた夜、必ず来るんだぜ?知らなかったのか、おまえ」
パンを一つつまんで、鎧綺は口に入れる。
「…知らなかった」
「稚林って顔は不味いらしいけど、料理は美味いんだよな」
「…そんなことないと思うけどな」
由騎夜はぼそりと呟いた。
台所からは二人の少女の楽しそうな話し声が聞こえてきていた。

2010/01/26(past up unknown)


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