煌く綺羅の夜 -第十章 祭の夜-


「れんちゃん、あの子連れ込んで何してるのかしら?」
煌瑚が言った時、蓮花が稚林を連れて出て来た。
稚林の顔は…これ以上赤くはならないんじゃないかという程、真っ赤になっている。
そう、いつもその顔を隠していた長い前髪が蓮花の手によって、可愛くまとめ上げられていた。
「煌瑚さん!どうですか?かわいいですよね?この方が」
煌瑚が答えるよりも早く、椅子に腰掛けていた鎧綺が答えた。
「っかわいいじゃん!稚林!うん、いつもそうしてろよ。絶対、その方がいいって。かわいいよ」
「そうね…、全然可愛いわ。(姉よりもね)」
最後のは言わなかったが…当の稚林は、鎧綺にかわいいと言われ立っているのもやっとだった。
と、そこへ天紅を抱いた由騎夜がやってきた。
(―!(蓮花を見て)可愛い…うん、彼女(稚林)も思った通りだ、可愛い…)
「あ、由騎夜さん!」
蓮花が気づき声を上げた。
「天紅が引っ張るから来てみたんだけど・・・二人とも、可愛いよ」
言った由騎夜は、恥ずかしさのあまり目が泳いでいる。
「珍しいわね、由騎夜がそんな風に口に出すなんて。何かあったの?」
「そうだ、何かあったのか?」
煌瑚はいいとして、鎧綺の言い方にはどこが棘があった。
「別に…」
そう短く答えて由騎夜も椅子に腰掛けた。
天紅は由騎夜の腕の中で気持ちよさそうに眠っている。
「さて、準備も出来たしそろそろ出かけたら?まぁ、二人じゃ危ないから…
 ヨーシュと・・・そう、四葉君についていってもらったらいいんじゃない?」
「ちょっと待て、何で俺じゃだめなんだ?」
「鎧綺(アンタ)の方が危ないからに決まってんでしょ(怒)」
「な、ちょっとなんで怒ってるんだよ?」
「いいから、死にたくなかったら二人を呼んできて」
「う゛っ・・・わかったよ」
鎧綺は渋々、二人を呼びに二階へ向かった。
「あの…姉貴?ちょっと話があるんだけど…」
由騎夜は多少言いづらそうに切り出した。
「何よ」
「・・・師匠が来たんだ」
その瞬間、煌瑚の美しい造作に天使とも悪魔とも言い切れない無邪気さが広がった。
「あ、姉貴……?」
「あぁ、あの極悪人より救い難い超絶的下劣色魔ね。あの色欲下郎がどうかした?」
絶対零度な笑顔の煌瑚のプレッシャーにもめげずに、由騎夜は続ける。
「(何かあったのかは、聞かないでおこう・・・)・・・それで、仕事の話があって…咲那の学校に来ないかって誘われたんだけど」
「仕事って?…行くとしても、診療所はどうするのよ。かわりにやってくれる人でもいるの?大体、仕事っていうけどまっとな仕事な訳?」
すらすらと煌瑚は揚げ足を取ってみせる。由騎夜は気まずそうに答える。
「…でも、そんな危険なことはない、し…」
「言い切れる?」
「……」
「もう少し考えをまとめてから言うのね。まぁ、私としてはあんまり賛成できないけど…あのよーな退廃的禁欲主義者の元に嫁ぐなんて」
「由騎夜さん、結婚するんですか!?」
そろって赤面しながら、蓮花は言った。顔の赤さは稚林の方が強いが。
何となく脱力する自分に抵抗しつつ、由騎夜は言った。
「結婚っていうか、ただの比喩なんだけど…」
「あ、そうなんだぁ…よかったー。由騎夜さんがお嫁に行っちゃうのかなぁって思いました」
「わ、私も…」
姉弟には共通の疑問が浮上していた。
((嫁…?))
蓮花と稚林がほんわか光線ビームで二人を圧倒している時、三人が階段から下りてきた。
鎧綺の顔は心なしか引きつっている。
「―じゃあ、一度俺と喧嘩してみるか?取っ組み合いの」
対してヨーシュはにこっと笑いながら言う。
「そう残念だけれど、私は取っ組みあいという無様この上ないケンカはしたことがないんだよ。
 取っ組みあう、なんて子供のケンカの延長上みたいなものだと思うけど」
「うっわ。めっちゃアンタの顔面蹴飛ばしたい」
「それは困るなぁ。反射的に反撃するかもしれないけど、その時はごめん」
何やら妙な言い争いをしているが、二人の後ろで四葉だけは言い争いの参加を拒絶しているようである。
呆れた口調で煌瑚は訊ねた。
「何、馬鹿な言い合いしてるのよ。二人とも待ちくたびれてるわよ」
「あ、はい。…わぁ、可愛いですね」
蓮花は顔をほころばせたが、稚林はぎゅっと固まっている。
(ままままま前髪がないから、顔が見えちゃうっっっっ!!)
そろそろと、ゆっくり稚林は視線を上げる。
ばちっとあからさまにヨーシュと目が合う。
意識が卒倒しかけた稚林だが、(よく見ると)端正な顔立ちの青年は微笑を浮かべた。
「こんにちは」短い言葉ではある。
しかし、稚林の中のヨーシュへの恐怖心はとり払われた。ヨーシュは訊いた。
「広場ですよね、あの色々露店のある・・・」
二人の少女はこくこく、と頷く。
「では、慎んでお嬢さん方のお供をさせて頂きます」
「・・・恥かしくないのか、言ってて」
そう言ったのは、四葉―――なぜか蓮花たちには聞こえないように。
「?いや全然」ヨーシュも小声で答える。
四人がドアへ向かって歩く途中、蓮花は稚林にこう言った。
「ねぇ、ちーちゃん。なんかお姫さまになったみたいだねっ」
「うんっ、そうね」
その時、ヨーシュの頬が引きつったのを四葉は見逃さなかった。
―――そして。
広場では夜に向けて、祭りのムードが盛り上がりつつあった。
「目立ってるかな……」
「あぁ」
周囲の好奇の視線に猛烈にさらされながら、二人は呟き合った。
可愛らしい二人の少女のあとを、長身の―色んな意味で―特徴のある青年達がついて歩いている様は嫌でも目立つであろう。
「四葉くん。いいこと思いついた…じゃなくて、用事を思い出したんだけど」
「ちょっと待て。どういう意味だ」
妙に愛想のいい笑みを向けつつ、ヨーシュは言った。いつの間にか手に提げていた袋を示し、
「ちょっと酒場に行くよ。昨日、店主と約束してね、弾き語りを披露するって」
「おい、待…」
「私たち二人がそろってるから目立つんだよ。そうだろう?」
「お前目立ってるんだ」四葉は半眼になってうめく。
軽―く四葉の肩を叩き、ヨーシュは言う。
「だったら、尚更私がいない方がいいね。じゃ、またあとで」
四葉のしまった≠ニいう顔に背を向けて、ヨーシュは歩き去った。
「あれ?お兄ちゃん、ヨーシュさんは?」
「…迷子だ(怒)」四葉は吐き捨てた。
彼の様子に蓮花と稚林は顔を見合わせる。
「「・・・まいご・・・?」」

2010/01/27(past up unknown)


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