煌く綺羅の夜 -第十章 祭の夜-


「どうしよう、お兄ちゃん!ちーちゃんがいないよっ!!」
「落ち着け、蓮花」
四葉は蓮花をなだめながら、辺りを見回す。
亜麻色の髪をした少女の姿は、どこにもない。
完全に、人込みに紛れてしまったらしい。
(これだけの人の中から探すのは、簡単ではないな)
溜息をつく。
見ると蓮花は、今にも泣き出しそうだった。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!!」
「落ち着けって・・・」
「だって、だってちーちゃんが!!」
「今すぐに探し出すのは無理だ。広い場所に行って様子を見よう」
「でも!」
「蓮花」
「うん・・・」
言ったものの、納得していないようで、蓮花は懇願するように四葉を見た。
「・・・・・・そうだ蓮花。何か買ってくるから、ここから動くなよ」
「あ、お兄ちゃん!?」
四葉は、可愛い飴の売っている店に近づく―並ぶのは恥ずかしいが。
と―、緑色の浴衣が目の端にうつった。
(何だ、いるじゃないかちーちゃん=j
声をかけるべきか―と考え、気付く。
(横にいるのは・・・カイキ、鎧綺とか言ったか。宿の・・・)
はたしてそれが安全なのかどうかは分からないが、とりあえず、放っておくことにする。
飴を1つ買って―出店の少女の表情は引きつっていたが―蓮花の所に戻ると、蓮花に男が話しかけていた。
無表情で四葉は2人に近付き、蓮花に飴を手渡す。
10cmは高いと思われる身長で男を見下し、蓮花からは見えないように、睨んだ。
―失せろ―
目は、そう語っていた。
男はそそくさと、離れていく。
「お兄ちゃん?」
「何でもないよ、行こうか」
「・・・?」
疑問を抱えつつも、蓮花は四葉の後に続いた。
そして。
円舞をする場所へ向かう集団が通るのと、蓮花が四葉の背中を見失ったのは同時だった。
(やだ、見えないっ!!)
必死に人を掻き分けて進もうとするが、思い通りにはいかない。
集団が通りすぎた後に、四葉の姿はなかった。
(わたし、はぐれちゃった・・・?)
1人残された蓮花は、その場に立ち尽くした。

何故、いない≠アとにもっと早く気付かなかったのか、と四葉が苦い顔をしたのはその1分程後だった。
恐らくは、人波にのまれて、多少流されたのだろう。
すぐ後ろについて来ていたはずの妹≠ェいない。
(戻って探すか・・・何事もなければいいが)
活気に満ちた人込みの中、周囲を見ながら歩いていたのだから、割り方、早く見つかったと言えるだろう。
5分たったか、たたないか、遠目に青色の浴衣を見つけて安堵の溜息をもらす。
歩み寄ろうとした矢先、目に映ったのは、木に背をあずけて立っている蓮花に声をかけた、銀髪の―――
(・・・由騎夜だったか?)
足を止め、見据える。
表情一つ変えずに、四葉は道の傍へと寄った。


「稚林、何してんだ?一人で・・・蓮花ちゃんと連れの2人は?」
「え・・・あっと、その・・・逸れちゃって」
「ふ〜ん」
鎧綺の反応に空しくなる稚林だったが、次の言葉で卒倒しそうになった。
「じゃ、一緒に見て回る?俺でいいなら…」
稚林は、驚きのあまり鎧綺の顔を見入ってしまった。その稚林の反応に鎧綺の顔は思わずほころぶ。
「随分と可愛い反応してくれるんだな。…で、どうしますか?お嬢さん?」
鎧綺の問いかけに、稚林は鎧綺の顔を見入っていた自分に気付き、恥ずかしさのあまり俯いた。
でも、鎧綺の申し出が嬉しくて、稚林にしては珍しくはっきり答えた。
「あのぉ・・・一緒に見て回ってください!!」
鎧綺はにっこり微笑んだ。


由騎夜は急患を理由に診療所へ向かったが、本当は一人になりたかった。
師ダラムの言葉を考えるために…。そして、自分と向き合うために…。
今日は祭りだから、診療所へもそれを通って行くことにした。
そこで、1人木の側にいる蓮花を見つけた。
(他の3人は・・・?)
そう思いながら声をかけてみた。
「…れん…う゛うん、1人でどうしたの?」
見慣れた銀髪の青年がいることに驚いたものの、嬉しさは隠しきれなかった。
「あっ、由騎夜さん!」
(彼の気配は…感じるのにどうしてココに来ないんだ?)
由騎夜は、そう思ったが口には出さない。
「それが、ヨーシュさんが迷子…で」
(…?迷子?彼が?)
「ちーちゃんとは逸れちゃって…」
(これこそ迷子か?)
「お兄ちゃんは…お兄ちゃんとも逸れてしまって、1人です」
「そう…1人でココで待ってるの?」
「そのつもりですけど…」
「…危ないから…やめた方がいいかと…診療所に行くんだ。来るかい?」
「でも、お兄ちゃんが!!」
由騎夜は微笑んだ。そして。
「大丈夫だ。知り合いに頼んで探してもらって、こっちに来るように伝えてもらうようにするから…」
「でも…」
「彼もきっと、君が1人でいるのは、嫌がると思うし…」
「・・・わかりました。でも、その前に金魚すくいしていってもいいですか!?」
(…金魚すくい…?)
蓮花の熱い視線に由騎夜は一瞬、たじろいだ。しかし
「いいよ」と答えていた。

2010/01/27(past up unknown)


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