煌く綺羅の夜 -第十章 祭の夜-


3曲目を歌い終えるころには、円舞には参加しない・暇を持て余している人々で酒場は一杯だった。
―といっても立ち聞きの客が4、5人いる程度だ―
旋律が止まる。直後、拍手喝采がヨーシュに浴びせられる。中には泣いている者もいる。
「いいぞ、兄ちゃん!」とか「感動したぞー!」など友好的な讃辞に応え、ヨーシュも笑った。
彼は歌の途中、一筋流れた涙を拭いて言った。
「ありがとう、みなさん。曲目は『エアンティメナ』の挿入歌第9でした」
ヨーシュが優雅に一礼してみせると、また拍手がおこった。
ヨーシュが口を閉じたのと同時に、煌瑚の頭の中に音の波が押し寄せてきた。
煌瑚は顔をしかめて、耳に手をやった。
そうしたからといって音が聞こえなくなるわけではなかったが、しないよりはましなような気がした。
「気分悪いのかい?」
マスターが心配して聞いてきた。
「なんでもないわ」
煌瑚はそう応えたが、音の波が頭の中に氾濫し、気が狂いそうだった。
音は、時間が経つほどに大きくなってきていた。
「マスター、もう帰るわ。お代は・・・・・・いつものように鎧綺につけといて」
煌瑚はそう言って立ち上がった。
早くここから、出て行きたかった。
「あぁら、珍しいこともあったものね」
祢音が煌瑚に気付き、近寄ってきた。
よりにもよって、今一番会いたくない奴に会ってしまった。
祢音が来ていることには気付いてはいたが、向こうが気付く前に出ていたかった。
無視することに決めて、祢音に背を向ける。
「ちょっと待ちなさいよ」
肩をぐいっと引かれた。
煌瑚はすっと目を細めて祢音をみた。
「何?」
いつもより低いトーンの煌瑚に、祢音は少し戸惑いを覚えながらも、いつものように、煌瑚への嫌がらせをはじめた。
煌瑚は、適当にながそうとしたが、何故か、周りから流れ込んでくる心のおとよりも、はっきりと正確に、頭の中に響いてきた。
音は今も、どんどんと大きくなっていっている。
あまりの音の量に頭が壊れそうだった。
視界がぼやけてきた。
あまりの多すぎ、大きすぎる音を、頭の中で処理することができず、視覚が失われつつあるようだ。
(・・・・・・・うるさい・・・・・・・・)
祢音の嫌がらせはまだ続き、優位の心の声は次第に、大きくなっていく。
(・・・うるさい・・・うるさい・うるさい・うるさい)
視界は完全に見えなくなってしまった。
目が見えなくなったことで、余計に、音は大きくっていった。
うるさい!!
煌瑚のその心の声は、酒場を抜け、広場をわたり、村中にいた人の頭の中に届いた。
煌瑚は次の瞬間には、意識を闇の中へと手放していた。

2010/01/27(past up unknown)


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