煌く綺羅の夜 -第十一章 真夜中の静寂-


鎧綺はいらいらしていた。
一体、何が起きたのかもわからず、ひとりだけ蚊帳の外にいるようで、いらいらしていた。
とりあえず、言われたとおりに蓮花を探すことにする。
ふと、蓮花は今、由騎夜と一緒にいるのだろうかと疑問に思う。
そうなら、二人は診療所にいるだろうが、もしかしたら蓮花はひとりで迷子になってるかもしれない。
わからないので、村を一回りしてから診療所に向かうことにする。
「畜生・・・なんで、俺だけひとりなんだよ・・・」
そんなことをつぶやきながら…。

蓮花草。
夜道に、紅紫の小さな花が咲いていた。
見落しがちに、だがしっかりと。
もう、この花の季節は終わっている。
恐らく、来年まで見ることはないだろう。
蓮花…海緑蓮花。
彼女が、弟を変えた。
笑うようになった。
(本気だよな、あいつ)
自分はどうだっただろう。
苛立ちが募っていく。
鎧綺は、深く溜息をついた。
(――今回ばかりは…な)



―何と言えばいいのだろう。
様々な言葉が頭をまわり、咽の奥で引っかかる。
それでも、答えたい。
自分を好きだと言ってくれた相手。
ゆっくりと、蓮花は言葉を紡ぐ。
「わたし……えっと、由騎夜さんの横に、その…居たいと思いました…………ずっと
抽象的な言葉――だが、少なくとも否定ではなかった。
何か言おうとする由騎夜。
が、ドアが開いた。
「蓮花ちゃん、由騎夜、いるだろ?」
「鎧綺さん…?」
少しだけ由騎夜に申し訳なさそうに、蓮花は顔をのぞかせる。
「四葉さんが呼んでるよ。家で待ってるって」
「えっ…と」
ちらりと由騎夜を見る。
「俺も戻るよ」
蓮花に続き、由騎夜も部屋を出た。
鎧綺と目が合う。
蓮花は外へ出たらしく、もう姿はなかった。
たった今、気付いたことだが、夜景を見ていたのだ。
よって、電気をつけていない。
兄が想像しそうなことは知れている。
何か言われる前に、誤解はとくべきだろう―――蓮花のためにも。
だが言葉は見つからず、気まずい空気が流れる。
先に目を逸らしたのは、鎧綺だった。
「…今回だけ、だからな」
言い残し、出て行く。
それは果たして、どうとるべきなのか。
今日のことは見なかったことにするという意味か。それとも。
それとも、蓮花のことを――。
ともあれ、考えていても仕方がないので、由騎夜も外に出て、鍵をかけた。
心中で(悪いな…)と呟きながら…。


蓮花をはさみ、歩いていると鎧綺がぽつりと呟いた…。
「大……か、……はや」 (大丈夫だろうか、稚林)
聞き取りずらく、蓮花が聞き返す。
「何て言ったんですか?」
由騎夜も目だけを鎧綺の方へと向ける。
「うん。俺、ちょっと稚林の様子見てくるから、先帰ってて」
「ちーちゃん、どうかしたんですか?」
「あー…、ちょっとに。気を失って倒れたんだ」
「えっ!!」
「だから、ちょっと寄ってから帰…」
「私も!!」
言いかけたが、鎧綺がそれを遮った。
「だーめ。四葉さんが帰って来いって言ってる。怒られるのは俺だしな、蓮花ちゃんを連れていった場合…だからだーめ」
そこで由騎夜が口を開いた。
「じゃ、俺が見に行く。一応…」
「お前もだめだ」
鎧綺の口調が明ら様に強かった。
「ちゃんと、四葉さんのもとへ蓮花ちゃんを連れて帰れ。増してや…お前は家にいないとだめだ!!!」
「何で!」
少々、喧嘩口調であるが…そんなことを言ってる場合ではない。
「…(やや躊躇って)たぶん、姉貴が倒れた。原因はきっと…あの声ア レだ…。
 だから、お前は家にいろ…じゃ、行ってくる」
そう言って鎧綺は走って行ってしまった…。
鎧綺の話を聞き、由騎夜は瞬間フリーズした。
「由騎夜さん…?大丈夫ですか?」
蓮花が呼びかける。その声にハッとなる。
「あ、あぁ。ごめん…。急いで帰った方がいいな。…空間移動…したことある?」
「いえ…無いですけど…」
「そっか…乗り物酔いする?」
「全然、大丈夫です」
「そう、なら…」
由騎夜は少し躊躇った…のちに…。
「あの…飛んで戻るから…(赤面して)手…つないでくれる?」
由騎夜の差し出した手に蓮花の手が重なる。
その瞬間、由騎夜と蓮花は宿屋の前にいた。



「で、稚林の様子は…?」
鎧綺は稚林の家にいた。家の人に様子を伺っていると、祢音が帰って来た。
酒場に行った後、フラフラと遊んで来たのだろう。
「それが大したことなくてね、鎧綺くん…」
稚林の母の言葉は祢音によって遮られた。
「きゃあvvどうして鎧綺がいるのぉ!!」
「稚林が気を失って…様子を見に来て下さったのよ」
「えー、そうなの?あの子のコトなんて気にしなくてもいいのに。それより…」
と祢音は鎧綺に媚を売った声で呼びかける。
そんな祢音を見向きもせずに鎧綺は、母親に問いかける。
「あの、稚林の部屋は…?」
「二階の突き当たりですよ」
「会いに行っても構いませんか?」
「えぇ。じゃあ、案内しますね」
「ちょっと、鎧綺?あの子の所に行くの?」
鎧綺にはその声が届いていないようである。いや、無視か…。
「ねぇ、鎧綺ってば!!」
とことん無視である。
祢音の呼びかけも空しく…鎧綺は二階へと上がっていった。

稚林は窓に寄りかかり月を見ていた。
コン、コン
戸が鳴ったので、返事をする…。「はい、どうぞ」
戸の開く気配が無いので、稚林は戸に歩みよりゆっくり戸を開いた。
戸を開き、目に飛び込んで来たのは、ずっと憧れていたその人。
「!!」
稚林は息をのむ。先に口を開いたのは―――。
「…身体は大丈夫なのか?もう起きてて平気か?」
鎧綺だった。

2010/01/27(past up unknown)


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