煌く綺羅の夜 -第十二章 言葉は心の使い-


「やっと森から出たと思ったら、また杜樂じゃねぇか。くそぅ…腹が減ったな。由騎夜のとこでも行くか。
しっかし、由騎夜のお姉さんは本当に美人だったな。あー、そういえば、あの時もう一人誰かいたような気がするな。それにしても腹減ったなぁ」
そんなことを呟きながら、ダラムは村の外れを歩いていた。
(…――!)
何の前触れもなく、立ち止まる。感じたものは、強い魔力。
ダラムは踵を返した。
森からだ。それも、すぐ近く。
魔力の強い誰かが、魔法を使っている。
容易に見つかった。
――その人物は、黒かったのだ。
黒い衣服を、纏っていた。
「――…伽代…の、四葉?」
躊躇いがちに、言う。
四葉は目線だけダラムに向け、すぐに戻した。
――血に濡れた右腕に。
「…何をしている?いゃ、何をしてきた?」
ダラムは木の下の四葉に歩み寄る。
「戻れば分かる」
そっけなく、短い答えが返ってきた。
「何?」
ダラムは怪訝そうに、眉を顰めて、聞き返す。
「軽い水面下の戦いだかを静めてやった。貴方は敵が多いようだな?」
「な、何だと?」
声が引きつる。
『静めてやった』の一言で片付く問題ではなかった。
「少々荒い方法だが…安心しろ、誰も殺してはいない。誰が誰だか分からなかった。
首謀らしき奴は、魔法学校のフェンスに結び付けておいた。木の蔓(もちろん魔術)の絡み具合が自分でもなかなかの仕上がりだと思ったな」
「フェンス…?いや、それよりも殺していない…のか?」
「中々、辛いものがあった。首謀らしいと話から推測される人物に奇襲をかけた所までは順調だったが…
 相手の人数が多かったもので右手がこうなってしまった。俺の顔を見るなり、そのうちの一人が何故か怯えて洗いざらい話だしたのでとりあえず、円満解決になる」
「…で、フェンスに全員?」
「そういうことだ。治療系の魔法は苦手なので、今こうして梃摺っていた」
(俺の敵より腕の傷のが強いってか?)
乾いた笑いがもれる。
四葉は何事もなかったかのように立ち上がった。
「治ったらしい。血は洗うしかないが」
「…礼は言っておく。ありがとう。よし言った。で、だ。こんなことをして何の得がお前にある?」
「…この力の使い道が一つではないらしいことが分かった」
言葉の意味が理解できない。
ダラムは続ける。
「何故、こんなことをした?」
自分の前を通りすぎていく四葉は、振り向かなかった。
振り向かずに、答えた。
「愛する妹への、最後の贈り物、だ」

2010/01/27(past up unknown)


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