煌く綺羅の夜 -第十二章 言葉は心の使い- そこは出口だった。 入口とも言うが、この場合、出口だ。 「四葉」 何も言わずに、振り向く。 美しい白銀の髪――ヨーシュ。 「調子は、悪くないようだな」 「おかげさまで」 やけに静かだった。 ただ単に、人気がないだけかもしれないが。 「…挨拶は?」 「必要ないだろう。礼ぐらい言ってこようかとも思ったが、わざわざ戻るまでもない。…先に言っておくが、代金は置いてきてあるぞ」 「いゃ、そんなことは分かるけど」 少し間をあけて、ヨーシュは続ける。 「…これは、私が言うようなことではないかもしれない。…商売柄、君の父…駿模殿の話を聞くのだけれど」 「・・・・・・」 「伽代家と、癒しの力の使い手の話を。蓮花さんのこと…」 「大層、酷い評判が聞けただろう?」 表情を変えずに、四葉は言った。 「ああ、確かに。…ただ、聞けば聞く程、逆に思えて仕方がない」 「…逆」 「監禁、ではなく、実際は」 「保護とでも言いたいのか?」 言葉を遮る。 「…君は、どう思っている?…気持ちを、考えたことは…」 「薄々は前から気づいていた。…蓮花が家を出てからだが。 だからどうだ、という訳ではないだろう?今更…」 「…四葉」 「今更、話し合う気もなければ、戻る気も、ない」 やはり変化のない表情―だが、口調はどこか重さを含んでいた。 「だから、髪を染めたのかい?」 「――気付いてたのか」 「・・・何となく」 「本当は、父と全く同じ青い色だ。…昔から、嫌いだった」 四葉は、長くはない髪を指で弄ぶ。 外見に似合わない、とまでは言わないが繊細な指が、水晶色の瞳を顕にした。 「目も、顔も、俺は父似らしい」 「…だったら、君の父上はよほど女性に人気があるだろうね?」 「…………」 指先が、髪から離れる。 それは弱者のものではなく。 触れずして相手を傷つける、繊細な刃。 「御喋りが過ぎた」 四葉はヨーシュに背を向けた。 「……御機嫌よう、ガフォウル・レイ=ヨーシュ伯爵殿」 何気ない――少なくとも今までと大差ない、口調の一言。 吐き捨てるでもなく、語りかけるでもなく。 ただそれは、初めて人へ向けた皮肉だった。 「・・・どこでその名を?」 動揺は心の内へ押しやり、静かに聞く。 「父は、この大陸で唯一・・・と言っていいだろう。他大陸との交流があった。俺が知っているのは、グリューラル帝国のレイリュース皇女という名だけだが」 「―――・・・それは、私に対する嫌味かな?」 「まあ、そういう言い方もある」 四葉は一歩、外へ踏み出した。 「・・・話が聞きたいのなら、鳳俊へ行ってみるといい。名前を出せば、手厚くもてなしてくれるだろうさ」 ゆっくりと、歩いていく。 「・・・ありがとう、伽代、四葉。縁があれば、また・・・いつか」 ヨーシュは微笑んだ。 言葉には、先程の仕返しに柔らかな刺を込めて。 2010/01/27(past up unknown) target="migi">← → 煌綺羅 TOP |