煌く綺羅の夜 -第十二章 言葉は心の使い-


ドアを開け、入ってきたのは豪奢な暗紫の髪をした男。
「よ、由騎夜」
「…師匠!?」
偶然にも出入口の近くにいた由騎夜は、思わず大声をだした。
「…由騎夜さん、の…先生ですか?」
廊下を歩いてきたのは、蓮花だ。
男――ダラムは、由騎夜と蓮花を見比べ、含み笑いをする。
「…師匠、何なんですか」
視線に気づいた由騎夜は半眼でつぶやく。
「あー、いや、お前に頼んでた、咲那の特別教師の話だがな」
「特別…教師…?咲那の…?」
複雑な表情を、蓮花が浮かべた。
「蓮花ちゃん…前から、言われてはいたんだけど」
「あー、だからな、由騎夜。あれやめたから」
「そう、やめたから。・・・・・・はい!?」
咄嗟に、またしても大声をあげる。
「いや、何か終わったみたいだから。駿模んとこの息子がやらかしてくれたらしい」
「お兄ちゃんが!?」
「村の出口に向かってたように見えたが、ここの客だったのか?」
由騎夜は、その言葉を聞くなり階段をかけのぼった。
ダラムは、蓮花に笑いかける。
「可愛いお嬢さんだ。蓮花さんと言うのかい?」
「え、あ、はぁ、その、はい」
蓮花は半歩後ずさった――が、踏み止まる。
「あの、お兄ちゃんがどうかしたんですか?」
「どう、と言われても…怪我はしてたな」
「怪我!?」
「ま、自分で治療してたから心配することはないだろうけどな」
「蓮花ちゃん!!」
血相を変えて、由騎夜は降りてきた。
手に持っているのは、紙幣。
「これ、彼が――、こんな額…ざっと倍はある」
「…お兄ちゃんは、もう行ったんですね」
「行こう!走れば追いつくかも…」
「いいんです」
蓮花は言いきった。
少しだけうつむき、だがはっきりと。
「でも」
「いいんですよ、お兄ちゃんがそうしたかったんだと思いますから」
「蓮花ちゃん、でも……」
「わたし、いつもお兄ちゃんに迷惑ばかりかけて、お兄ちゃんは自分のこととか考えてる
時間があんまりなかったんです。…お礼は、言いたかったな…」
蓮花は顔を上げて、笑った。
「お兄ちゃんって、絶対幸せになると思うんです」
「…何で…」
「あぁ、名前か?」
言ったのは、ダラム。
「はい!四葉よつばのクローバーの花言葉は、幸せですから!」
笑顔だった。
――たった一滴の、涙をのぞいて。


時は流れる―――
それは時として
人の心に意味をもたせる―――

流れる時に身をまかせ
どこまでも行くがよい
熱き心をもった若者よ―――


   <第十二章 終>

2010/01/27(past up unknown)
target="migi">←

煌綺羅 TOP

inserted by FC2 system