煌く綺羅の夜 - 第十三章 過ぎた嵐―激動の果てに― - 「じゃ、由騎夜、俺は行くからよ。赤ン坊が出来たら見せにこいよ?蓮花さん、こいつを頼みますね…」 「ちょっ、あっ、師匠!!」 ダラムは言うことだけ言って飛んで帰ってしまった…。 ダラムの発した言葉に由騎夜は赤面している。 蓮花は…理解してないようだった。 「あ、そうだ。…蓮花ちゃん、朝食作ってしまおうか…」 「そうですね」 「…けど、本当によかったの?…四葉さんの、こと」 「はい、もういいんですよ、そのことは」 蓮花は何かを振りきるかのように、台所へ向かった。 ――ガタン コンコン 窓が鳴った気がした。 いや、鳴ったのだが…。稚林は驚いて、窓を見る。 「…鎧綺くん!?」 稚林は窓を開ける。 「おはよう、稚林。悪いな、こんな朝早くから…しかも窓からで」 稚林は目を真ん丸にして驚いている。 「鎧…綺、くん?どうしたの…」 「うん。ちょっと話したいことあって…いや、顔が見たくなって…かな?」 (顔が見たくなって?…私を?どうして?) 「なぁ、稚林。お前…『お友達になって下さい』って言ったよな?」 稚林は頷く。 「…あのさ、今までの俺たちって一体なんだったんだ?」 「え?」 「俺的には友達のつもりでいたんだけど違ったの?」 鎧綺の言い方は…どうもイヤらしい。 「あ…の、それは、えっーと…」 稚林は困っている。突然の鎧綺の訪問…そして言った言葉に。 「いやさー、もし…う゛〜ん。…そうだな、稚林さ、俺のことどう思ってる?」 その瞳は、稚林を射抜くかの如く鋭い。 「えっ!!…(赤面)鎧綺くんのことを…?」 「あぁ…」 「どうって…」 「俺は稚林が好きだよ…。愛してる…」 稚林は卒倒しそうになったが、それを鎧綺が抱きとめる。 「あ…っ、か、か、鎧綺くん!?…あっ?!」 鎧綺は抱きとめた稚林に…稚林のその唇に軽く口づけた。 「…もし稚林さえ、嫌じゃないなら 「えっ?あっ…えっ?」 かなり動揺しているのは明確だった。 「まぁ、最後のは冗談だけど…俺はマジで言ってるからさ…どう?」 「どう、って…わ、わた…し…はっ…」 稚林は言葉さえろくに紡げずにいたが、やがて、じっと鎧綺を見上げた。 「わたし…わたし、なんかでいい、の?」 「稚林だから、いいんだよ」 そう言ってから、鎧綺は少し後悔した。稚林が泣き出したのである。 「…泣くなよ…」 「だって…泣きたく、なく…っても、出てくる…だも…、うれしいの…にっ…ごめっ…」 「はいはい」 と言って、鎧綺は細い彼女の体を抱き寄せた。 既に、その後ろ姿は見えなくなっていた。 踵を返して、宿屋への足を速める。決して走りはせず、ヨーシュはほとんど無意識に歩く速さを上げていた。 言葉を呟くこともなく、扉の前に立つ。 そこで、ヨーシュは息を整えた。 (・・・大丈夫だ。安定しているじゃないか・・・) 胸中で呟き、扉を開く。不思議と体は軽く感じられる、が、妙な高揚感に水を差すかのように音が耳に入り込んできた。 音の方向を見ると、人――少女が立っていた。 ヨーシュは思わず彼女を凝視する。 (・・・ソー・・・) 「ヨーシュさん?」 名を呼ばれて、ヨーシュは口に出そうとした名は全くの場違いであることに気づいた。 (よりによって・・・妹と間違えるとはな・・・) 一人で何やら苦笑いをしている彼に、蓮花はきょとんとした。 「ヨーシュさん、どこにいってたんですか?」 「あぁ・・・ちょっと、ですね」 「あの、朝食できたので、呼びに行こうと思ってたんです」 「ありがとうございます・・・けれど」 蓮花の顔を見て、ヨーシュは微苦笑をもらした。 この少女に親近感を覚えた理由がわかった気がした。彼は笑った。 「けれど、遠慮しておきます。今は食欲がないんです」 むしろ、この瞳のせいで自分の体がなくなっていく錯覚におそわれる。 「でも、ヨーシュさん昨日から何も食べていないんじゃ・・・」 「言われてみれば、そうかもしれないね・・・残念だけれど、私は食事より睡眠の方が欲しいのですが」 蓮花ははっとした。それから、心配そうな顔をして言ってくる。 「あの、でも、食事も眠るのも、大事ですよね・・・」 「そうですね」 「でもっ…でもっ…」何か言いたそうにしながら、彼女は口を噤む。うまく言葉が浮かんでこないのだろう。 ヨーシュは一瞬迷った。台所の方を見て、少女を見る。彼女はこちらを不安そうに見てきている。 笑いかけて、左手で眼帯を掴んでほどく。呆気なく、眼帯はとれた。 蓮花は驚いたようだった。 「目は…大丈夫ですよ。今は痛むこともないし、少なくとも正気は保ってます」 「…その、アザは…?」 彼女は彼の真紅に変化した右眼のあたりを見て言った。ヨーシュは自分の頬の紋様のある部分をさする。 「この目のときに浮かんでくるんですよ。気味悪いですよね」 呆気にとられている蓮花の肩をぽん、と右手で叩いてしまい、少しだけ痛がりつつヨーシュは告げた。 「とりあえず、私は少し寝ます。夕方になっても起きてこなかったら、起こしてくれませんか」 彼はそう言って階段を登っていった。 2010/01/27(past up unknown) ← → 煌綺羅 TOP |