煌く綺羅の夜 - 第十三章 過ぎた嵐―激動の果てに― -


「じゃ、私、何か作っておきますね」
蓮花は席を立つ。ヨーシュが起きた時のため。
テーブルに残された煌瑚と由騎夜は何もすることがないので、お茶を飲むことにした。
(ねぇ、由騎夜、もしもよ…)
煌瑚は突然、語りかけた。
「何?」
(…あー、やっぱりいいわ。何でもない)
「そ?何か…あるんじゃなくて?俺でいいなら…話聞くよ?まぁ、無理に話さなくてもいいけど…」
(…由騎夜、あんた大人になったんじゃない?少し)
「いや…そうでもないよ」
(そう?まぁ、いいわ。そんなこと)
「…(汗)そんなことかょ…」
(ところで…あんた、れんちゃんとどんな関係なの?)
「え゛…な、な、なんで?」
(なんでって言うか、名前で呼んでるし――、鎧綺もいないし――…って鎧綺あの子は?)
「あぁ、そういえば…あいつの気が部屋から感じられないな。――あ!もしかして…あーでもありえないか…」
(何?何か、私が眠ってる間にいろいろあったみたいね。で、鎧綺はどこにいるっぽいって言うの?)
「いゃ…あの、彼女…稚林…ちゃんとこ、かな…って」
(稚林?祢音の妹の?)
「う、うん」
(ふぅ〜ん。鎧綺って…れんちゃんじゃなかったの?まぁ、いいんだけど…)
「・・・」
由騎夜は冷汗タラタラ状態である。
(それで…あんたとれんちゃんの関係は?)
「…いや…別に…(汗)」
〔手出ししないように…≠チて言われてたしな…困った…〕
もちろん、この時の由騎夜は心を読まれないように、自分で心を閉じている。
いくら煌瑚の目が見えてはいないと言え、どうもいつものように見られているような気がして由騎夜は、居ても立ってもいられない心地だった。
が、しかし―――――――
かなりの間をとって由騎夜は話だした。
「俺さ…今まで…あいつに、鎧綺に…気になったり、好きになった子を…ずっと、とられてって言ったらあれだけど…そんなんだっただろ?」
(…そー言えば、そーね。あんたのオシが足りないから)
「ハハハ…まぁ、そう言われたらそうだけど…。でも‥‥‥今回は、何があっても譲れないし、諦められないって…心の底から思ったんだ…」
煌瑚は少し考えているようだった。
―――というよりも、慎重に言葉を選んでいるようだった。
(…それは…れんちゃんの、こと?)
「………あぁ………」
(手をだしたわけ?)
「いゃ!!出してない!!ただ…」
(ただ、何?)
「気持ちを伝えただけだよ…好きだって…」

貴女を愛しています、心から=@ヨーシュの言葉が甦る。

煌瑚じぶんの心はもう…とっくに決まっている。
だけど、そうなれば残される者は?
煌瑚は何とも言えない気持ちだった…。

「‥‥き、姉貴?」
由騎夜の声で我に返る。
「何、ボーッとしてるんだ?姉貴らしくもない…。やっぱり何かあるのか?」
(……)
「それは、俺タチには言えないこと?」
(…れんちゃん…)
「え?」
(れんちゃん…宿屋を、やっていけないかしら?)
「はい!?」
(…ねぇ、れんちゃんは由騎夜のこと何か言ってた?)
「何かって…何を?」
由騎夜の声は微妙に裏返っている。
(だから、気持ち伝えた時に決まってるでしょ!ったく、鈍いわね。本当に)
「…あー…うん、まぁ…」
(なんて?)
「いや…それは…俺の口からじゃ…」
(言いなさい…姉に逆らう気?)
「いぇ、言います!言わせて…って、構えるな!!言うから…」
(早く言いなさいよ)
「…横に…居たいって…俺の…」
(…そう…よかったじゃない)
「姉貴?」
(じゃあ、ちょっとれんちゃん呼んできて。教えることが山ほどあるからって)
「・・?」
由騎夜は言われるままに蓮花を呼びにいった。
弟の足音が遠ざかり、すぐ後に二つの足音が近付いてくる。
煌瑚は何とも言えないほほえましさを感じて笑った。
「―煌瑚さん、どうしたんですか?」
蓮花が訊いてきた。
さて、何から話そうか。いろいろ伝えなくてはならないだろう、いろいろと…。
一粒くらいの寂しさをかみしめ、煌瑚は語り始めた。

眼を醒ますと、そこはどこか見たことのある風景だった。
ここはどこだろう?確か、ここは自分の部屋―――でも、なぜここに…いや、それより。
ひどく喉が乾いていた。水が飲みたかった。
ヨーシュは狭い視界を見回し、水さしを見つけた。それに手を伸ばして、水さしを抱く。
奇妙な充実感を覚えつつ、早速水を飲もうとする。喉はカラカラだ。早く飲みたい。
(ん?今、何か映ったような・・・)
水さしに何か反射したようだ。ヨーシュは背後が気になり、振りかえろうとした。
(―――煌瑚さん?)
まちがいなく煌瑚だった。驚いていると、彼女が言った。
「ごめんなさい。私、あなたじゃだめなの」
(え!!?)
「私、そば枕苦手だから…羽毛もだめなの」
「それと、私と何の関係が!?」
「ごめんなさい」
訳がわからない。ヨーシュがおろおろしていると、突然煌瑚の右手が閃いた。
ほとんど、拳のような衝撃。或いは何かに叩きつけられたような―――。
そして、彼女は嘲笑した。
「だって、あなた、左右の目の色別じゃない」
がん!と頭を殴られたようだった。目の前がちかちかとして景色が回転し、首が痛くて、
―――世界がひっくり返っていた。
・・・・・・。
ヨーシュは枕をがっちり抱いていた腕で床と体の距離をつくった。
その拍子に、祖国の国王より賜った水晶の剣(鞘つき)が、かたんと床に倒れた。
(やれやれ…全く…情けないじゃないか?随分と…竜殺しの英雄が竜の剣に殴られるなんて…)
と毒づいてみる。
寝返りを打ち、左頬から落ちた挙句に自分の剣に一撃され、ヨーシュはこの上なく素晴らしい寝起きだった。
嘆息して、彼は行方不明の掛け布を探った。
頭の思考速度が亀の歩み並だったのは、ヨーシュが未だに睡眠体勢を持続してるせいだった。
掛け布は床に落ちていた。
左手でベッドのわくに手をかけ、右手で拾おうとする。が、手が滑った。
どごっ。
彼はもう一度、床に口づけするハメになった。
むっくりと起き上がり、掛け布を整えて、ヨーシュは再びベッドに横たわった。
(…変な夢だったな…)
それから数秒もしないうちに、彼は寝息を靜かにたてた。

2010/01/27(past up unknown)


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