DOTING 1 -煌く綺羅の夜- その日の午後から、蓮花と稚林が由騎夜の診療所に遊びに来ることになっていた。 というのも、鎧綺が学校の遠足でお昼に宿屋に戻らないからだった。 蓮花一人ではよく来ているのだが稚林と2人でということは滅多になかった。 由騎夜はいつものように午前の仕事を済ませ昼休みに入っていた。 「おい、いるか?」 声がしたかと思えば、男のもので、それは緋耶牙だった。 「あぁ、どうした」 由騎夜は珍しい訪問者に当たり前のように答える。 「今…時間あるか?」 「今?これから、蓮花ちゃん達が来るけど…」 「蓮花ちゃんね…いつになったら“ちゃん”がとれるんだ?」 「…そういう話なら聞かないが」 「あー違う、悪かった」 そこへ。 「由騎夜さ〜ん!お昼持ってきましたよ〜!」 と蓮花が稚林と共にやってきた。 「はーい☆蓮花ちゃんに稚林!」 「あ!緋耶牙さん、いらしてたんですか!?どうしよう…お昼三人分しか…」 「あ、いいよ。蓮花ちゃん、俺もう帰るから。…由騎夜、今日仕事が終わったら来てくれ、店に。そこで話すわ」 「あぁ、わかった」 「じゃぁ、そろそろ帰りますね?」 「あぁ、気をつけて」 「…ごめんなさい。せっかくの2人の時間だったのに、お邪魔して」 唐突な稚林のボヤキに半年も経つのに、由騎夜と蓮花は赤面した。 「別に構わないよ、皆で食事した方が楽しいし…さ」 と、由騎夜は言葉を切った瞬間、殺気を感じた。 バッと、その方向を振り向く。 そして、そこにはナイフを両手で握り締め、鬼婆のような形相で三人を睨んでいる若い女がいた。 「オマエナンカ・・・お前なんか!!」 危ないと思った瞬間、ナイフは振り下ろされていた…稚林に向かって。 由騎夜の左腕が稚林をかばった。 ザシュッッッ。 「キャアアアア―!」 「ッ…くッ…」 由騎夜の肘から五センチくらいの左上腕から鮮血が服ににじんで床にポタポタと血だまりをつくる。 由騎夜の顔も苦痛に歪む。 「あ・・・わ、わ…」 切りつけた女、白梅枝都<はくばいえつ>は鎧綺の追っ掛け(…ストーカー?)の一人だった。 白梅は自ら振り下ろしたナイフが人体を切った感触に、恐怖を覚えその場に失神してしまった。 「・・まいったな・・」 そんな言葉で済むのか!?と突っ込みたくもなるが、由騎夜にしてみれば蓮花と稚林にケガがなかったのでその程度らしかった。 「ゆ、ゆ、由騎夜さん!?大丈夫ですか!?あ、私、治しますか!?痛いですかッ!?」 見れば、蓮花が心配してワタついている。 左腕から血を流しっぱなしの由騎夜だが、心配させまいと笑顔で答えた。 「大丈…夫…。人間の、治癒能力は、そんなに低くないから…気持ちだけ受け取っておくよ。 この傷を治すのなら、蓮花ちゃんが、力を使いすぎて倒れてしまう…」 「で、でも…!」 「大丈夫、だから…奥から、青いビンに入ったクレゾールっていう液薬と…脱脂綿にガーゼと、包帯を持ってきてくれないかな」 「わかりました!!」 蓮花は診療所の奥へと入っていく。 「稚林ちゃん、大丈夫か?」 失神までには達してしないが、茫然と立ち尽くしている稚林がそこにいた。 「…あ……は、い。あ!由騎夜さんは大丈夫ですか!?きゃあ、血が…血が…」 由騎夜に声をかけられ、意識が戻ってきたようだ。 と、そこへ蓮花が戻ってきた。 「はい!持ってきましたよ、これでいいんですよね??」 「あぁ、ありがとう…っと、二人は宿屋に、戻ったほうがいい。今から送るから手を握って。 鎧綺も後、一時間くらいで戻る、はずだから…。さぁ」 そう言って右手を差し出す。 「え、でも!ケガの処置は!?」 「自分で、出来るから…それより、ここに二人がいる方が危ない。さぁ、手をつないで」 蓮花は由騎夜の瞳を見つめ、何かを言おうとしたが… 悟ったように稚林の手をとると、由騎夜の差し出した右手を握った。 由騎夜が心の中で『二人を宿屋へ』と思った瞬間、すでに二人の姿は由騎夜の前から消えていた。 「…くッ、やっぱり…ケガをしてると、疲れるな…」 そう呟くと、由騎夜はヘタッと、その場に座りこんでしまった。 2010/01/25(past up unknown) → 煌綺羅 TOP |