DOTING 6 -煌く綺羅の夜- 昼食をとり終わった後、由騎夜は宿までとばしてくれると言ったが、蓮花はその申し出をやんわりと断った。 今また、由騎夜と密着することになれば、自分がどうにかなってしまう気がしてならなかったのだ。 (あたしってば…どうしたんだろう…何でこんなにドキドキいってるの??) 蓮花の頭はいろんなことで、ぐちゃぐちゃになっていた。 だから、目の前に人が立ったことにも気づかなかった…。 どんッ。 「あ、すみませ…」 蓮花が顔を上げて前を見ると、そこには『どうしてここまで縁があるの!?』と蓮花ですら思う人物がいた。 「あ、あなたは…」 そう白梅枝都が、にっこり微笑み―しかし、その手には凶器をもって―立っていた。 蓮花は一歩後ずさる。すると、枝都が二歩進む。 こんなことになるなら、由騎夜さんに送ってもらえばよかったと思う蓮花だが、もう遅い。 (恐い…どうしよう…由騎夜さん!) 身体中が小刻みに震えているのがわかる。でも、平気な振りをして蓮花は訊ねた。 「ど、どうして…こんなことするんですか…?」 微かだが声も震えていた。 「どうして?貴方…野暮なこと聞くのね。由騎夜さんにと別れてもらうために、この世から消えて欲しいのよ。貴方に!!」 稚林の時もそうだったが、この女はどうしてこうも極端な発想なんだろう…と、 そこで、持っていた凶器―鉈―が振り上げられる。 (殺される―) と目をぎゅっと瞑った瞬間…構えていた衝撃はこなくて、でも生温かい血(もの)は確実に飛んできていて…。 蓮花が恐る恐る瞳を開けるとそこには、見慣れた大好きな人―由騎夜―の顔があって…。 「きゃあああああああ…(以下続)ッ!!」 「くッ……はぁ、はぁ、蓮花ちゃん…ケガ、な、い…?」 そう訊ねる由騎夜の右肩は、ぱっくり割れ、それこそ左腕の時とは比べものにならない程の血が流れ出ている。 足元には、そのケガを作った鉈が落ちていて…。 「は…は、はい。ゆ、由騎夜さん!?今、治しますから!!」 さすがに、今回は由騎夜も大丈夫≠ニは言えず、地面に片膝を着いて崩れてしまった。 (…ッ、くそッ……骨まで、やられたか……) 「蓮、花…ちゃん…半分、でいい、から……ッ、縫わなきゃ、いけないから……とり、あえず、骨だけ…」 蓮花は由騎夜の肩に手をかざす……が、やはり簡単には治らなくて。 「由騎夜さん、大丈夫ですか!?もう少し、我慢してくださいね!!」 蓮花が必死に由騎夜の処置をしているところに、先程の悲鳴を聞きつけた朱璃がやってきた。 「蓮花ちゃんと……っと、由騎夜!!ちょっと、大丈夫!?何、そのケガ!!誰にされたの!?」 そういう朱璃に、由騎夜が痛みに顔を歪めて、それでも何でもないかのように答える。 「蓮花、ちゃんが……襲われ、た…枝都に…」 「なっ!!わかったわ、枝都は私に任せて。一先ず、診療所に戻りなさい!!」 そう言うと朱璃はいつも腕に巻いてある布をとり、肩をしばって止血した。 その時には、蓮花のおかげで骨はくっつき、痛みも幾らかは治まっていた。 「痛いだろうけど、我慢しなよ!(血を)流しっぱなしよりはいいから!」 朱璃はそして、枝都を捕まえるべく村へと走っていった。 「由騎夜…さん?大丈夫ですか??」 そういう蓮花も肩で息をしていた。由騎夜はヒビが入っていたであろう骨が蓮花によって治されていることを確認すると、 汚れていないほう…即ち、昨日ケガをした左手で蓮花を抱き寄せ、診療所へととんだ。 とんだ途端に、由騎夜は崩れ落ちた。慌てて、蓮花が支え簡易ベッドまで手を貸す。 「無茶しないでください…っ!!」 蓮花は半泣きでそう言った。 朱璃の止血のおかげで、だいぶ血も止まっている。 「…ッ、よかった…蓮花ちゃんが、無事で…。すぐ、追いかけて、正解だった、な…」 ベッドに腰掛けている由騎夜は、蓮花を引き寄せ、その右肩にコツンと額をあずけた。 「大丈夫…ですか?ごめんなさい…ケガさせてしまって…」 「いや、俺はいいんだよ…それより、蓮花が無事で、本当によかった…」 (あ…まただ……) 「由騎、夜さん?」 「ん?」 「今、…蓮花って…」 「え?あ…今、呼んでた…?ごめん…」 「呼び捨て…嫌じゃないです。むしろ、…嬉しいです」 「!!」 一瞬、驚いた由騎夜だったが、次には破顔で。 「本当は…ずっと、そう呼びたかったんだ…蓮花…俺のことも、由騎って呼んで…?」 由騎≠アれは、本当に心を許した人にだけ、呼んでと言っている呼び名だった。 今まで言わなかったのは、自分も蓮花と呼びたかったから…。 「はい……由騎、もう無茶しないでくださいね」 「ストップ。敬語もだーめ、いい?」 「はい…あ、うん。もう、無茶しないで」 「うん、わかったよ」 そう言うと、どちらかともなく唇を重ねた。 ・・・由騎夜、ケガの処置しろよ!! 2010/01/25(past up unknown) ← → 煌綺羅 TOP |