DOTING 10 -煌く綺羅の夜- 由騎夜が鎧綺と話をしてから―つまり由騎夜と蓮花が互いに呼び捨てで呼ぶようになってから―1週間が過ぎた。 由騎夜は最初の左手の包帯は既に取れ(もちろん傷はばっちりのこった)、 右肩の包帯もあと3,4日で取れるだろう、というところまで回復していた。 一応、明後日から診療所を再開させようと思っている。 今日の日中は、久しぶりに宿の中の模様替えをすると蓮花が言ったので由騎夜は手伝った。 というのも、学校が3日前から夏休みで鎧綺と稚林は、 一昨日から2人で鎧綺の母校がある羅埜(ラヤ…地名)に遊びに行っているのだった。 行く前に鎧綺は由騎夜にまぁ、頑張れよ!2人きりだから≠ニ告げていった。 もちろん、言われた由騎夜は多少なりとも動揺した。 で、昨日の夜は特に何もなかったのだが…今日は、由騎夜、男としての覚悟を決めていた…。が、 (…大丈夫だろうか…もし、もし…否定されたら、どうするかな…) と、自らを不安にさせるような考えしか浮かんでこないでいた。 由騎夜が風呂からあがると、蓮花が風呂に入った。 蓮花が風呂に入っている間、ずっと由騎夜は葛藤していた。 (半年か…。長いんだろうか…。鎧綺や緋耶牙だったら…長いんだろうな…) ふと、咲那にいた時の級友の顔が浮かんできた。 (まぁ、俺でも長いのか…。チコア以外は、今まで皆年上だったからな…。 蓮花は…絶対、初めてだろうしな。これで、初めてじゃなかったら…俺のこの半年は何だったんだろうな) そう思い、蓮花が上がってくるまで目を閉じた由騎夜だった。 「今日のお風呂、ミントの香がしたね」 蓮花が風呂から上がり、由騎夜の部屋にきた。 「うん、何となく」 「すごく、リラックスできたよ!」 「それは良かった。何か飲む?」 「あ、うん。麦茶でも飲もうかな」 と蓮花は麦茶をとりに、台所へと走っていった。 由騎夜の部屋の机の上には、焼酎の瓶とグラスがおいてあったが、焼酎が注がれた形跡はグラスにはなかった。 台所から戻ってきた蓮花が、そのことに気づき由騎夜に問う。 「あれ?珍しいね、今日は飲んでないの?」 「うん、少し考えごとをしてて…飲みそびれた」 「飲みそびれた?ふふ、変なの(笑) でも、考え事って?何か心配事でもあるの?」 「…心配事…そうだな、うん。ある意味、心配事…かな」 「どうしたの?話なら聞くよ?」 「あ、あとで聞いてもらうよ(ニッコリ)」 「あとで??」 「まぁ、気にしないで。麦茶温くなるよ」 と由騎夜は蓮花のグラスに麦茶を注いだ。 巧くかわされた気がした蓮花だが、特に追求する気にはならなかった。 そして、寝る時になって蓮花は由騎夜の言った意味がわかった。 普段、蓮花を呼び止めることのない由騎夜が呼び止めたのだ。 「蓮花…、君が欲しい…」 「え…?」 言うや否や、由騎夜は蓮花を抱き上げ(俗にいうお姫様抱っこ) そして、蓮花の部屋に行くべく階段を昇る。 蓮花の部屋につき、蓮花をベッドに降ろし、もう一度言う。 「蓮花を抱きたい…」 「え、あ…」 「…いい…?」 そう言って蓮花に口付けようとした由騎夜は、蓮花の否定に動きを止める。 「ま、待って!!」 (…やっぱり…俺じゃ、頼りないか…) 「わかった…やめるよ、けど。一緒に寝るくらいならいい?」 そういった由騎夜の顔はどこか辛そうで、哀しそうだった…。 (あ…傷つけてしまった…?) 「う…ん、それなら。大丈夫」 由騎夜は蓮花の左側(床側)に身を落ち着かせると、優しく蓮花を抱きしめた。 「由…騎?ごめんね…?」 「ん…別に、いいよ。もう、寝よう。…おやすみ」 (あ…やっぱり怒ってる…はッ!もしかして…嫌われた?) 「ん。おやすみ、由騎、好きだよ」 「ん…」 結局、それぞれの思いを抱いて、この日は眠りについた。 2010/01/25(past up unknown) ← → 煌綺羅 TOP |