Lighted Darkness
 -under children〜暗い陽の下の子供〜-



イギリス、バッティンガム。
メイン通りから二つか三つはずれた、あまりきれいではない通りの一角――そこに、あるアパートがあった。
アパートのドアには看板がかけられており、ゴシック体で林檎の木の遊び場&a院、と書かれている。
やがて、1人の少女と2人の少年がそのアパートの前にやって来た。
アパートからは、奇妙な金属音―長い2本のクギをぶつけたような―が規則的に聞こえてくる。
「先生起きてるね」少女が呟いた。
2人の少年は黙って何かを待っているようである。金属音が聞こえなくなった時、少年のうちの1人が、アパートのドアをノックした。
間もなく、ドアが開き、男が顔を出した。
年は二十代後半。アッシュ・ブロンドに漆黒の切れ長の双眸、黒い細いフレームの眼鏡をつけた若い男。
男は予想していたかのように、訊ねてくる。
「おはよう、3人共。朝からどうかしたのかな?」
「うちの母さんが、先生に卵持ってけって言ったから。はい、コレ」
バスケットを年長の少年が差し出し、ふたがわりの布をめくる。中身は白い殻の卵10個だった。
男は困っているような、嬉しそうな、複雑な笑みを浮かべる。
「ん。ありがとう、リック。でも、お母さんに伝えてくれ。先生は喜んでいたけど、出かけるところだったから、受け取らなかったってね」
「いつ帰ってくるの!?」
少女が青い目を丸くして訊いてくる。男はドアからすり抜けるように出てきてから、少女の頭をぽん、と撫でる。
「夜までには帰ってくるけど、今日は休診するつもりだょ、リッティ」
黒いスーツの上にベージュのコートを羽織り、男は右手に木製のケースを持ち、ポーチの階段を降りようとして、コートがついてきていないことにすぐ気づく。振り向いて、告げる。
「裾をひっぱるなよ、マーフィ。コートはこれ一着しかないんだから、伸びたら困るんだ」
「せんせー…」一番幼い少年が、おずおずと言ってくる。
「ん?」
「あのね、ママがせんせーにうちに来てって、やくそく」
「あぁ…」
「そうだよ、先生。いつ来てくれんの?母さんってば妙に張り切ってるんだよ」
「今日は、無理」
言ってから、青年医師は幼いマーフィの手をやさしく払う。
階段を降り切ってから、彼は振り向いた。
「また今度、必ず行くよ」
手を振る子供たちを背に、彼――イゼル・ヘインズは歩き出していた。
――歩き始めてから一時間と数十分。
イゼルは、ある孤児院の前に立っていた。
胸ポケットの懐中時計の時間を確認して、もう子供すら起きているだろうと見当をつける。
おおよそ、朝食の中頃の時間だと推測しつつ、彼は孤児院の玄関の扉をノックした。
数秒後、足音が近づいてきて、ドアが開いた。

20100120(past up unknown) writer 相棒・竜帝


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