Lighted Darkness
 -under children〜暗い陽の下の子供〜-



出てきたのは、二十代半のマンダリンオレンジの髪をした体躯のいい若者。
「おはようございます、ドクター」
「おはようございます…院長は?」
「はい、院長室にいますよ」
と、そこへ可愛らしい足音が聞こえてきた。
「ジャン先生?あー!お兄ちゃん!!」
そう言って少女イゼルの元まで走り寄ってくる。
「おはよう、シリィ」
そう言うとイゼルはシリィと呼んだ少女の頭を撫でた。


一方ここは、首都ロンドンから北西に馬車で約二時間の所にある古い住宅密集地。
ルートン。昔はそれなりに栄えていたこの土地も、今では昔から住んでいるそれなりに階級が高い人達しか住んでいない。
そんな土地の一画に、一軒の大きな家があった。
煉瓦作りの家の周りには然程高くない庭木が植えられ、丁寧に剪定されている。
「サラ」その家の中から威厳ある低い声が聞こえる。
「今日は孤児院へ行く日だろう。そろそろ支度をしなくて良いのか?」
白髪の六十代前半にしか見えない男性が孫娘に声をかける。
「・・・もう、してるわ・・・」
素っ気ない返事をして、二階の自室から降りてきたのは薄赤茶の髪をした若い娘。
紫色のノースリーブに黒のロングスカートを合わせている。
「おばあちゃん、…裏にある野菜持っていってもいい?」
「もちろん、子供たちにはたくさん、食べてもらわないとね」
おばあちゃん≠ニ呼ばれた夫人も、どことなくきちんとした雰囲気が窺える。
「ありがとう」と返事をすると、娘―サラ・ショールズ―は裏戸へ回る。
孫娘が裏へ野菜を採りに行くと、白髪の男性は夫人に声をかける。
「リン、今日は孤児院まで行ってくるから、少し帰りが遅くなるだろう」
「わかりました、気をつけてくださいね」
「それと―――」
何ですか?≠ニ言いたげに、夫人は編み物をしていた手を止め、男性を見る。
「昨日・・・また届いた。『彼』からだ」と言って男性は茶封筒を夫人に手渡す。
「まぁ、まぁ、また・・・本当に、一体どなたなのでしょうね。こんな事をずっと――あの時からして下さっているのは」
茶封筒を一つのレンガをずらし、壁の中―の隠し棚―にしまう。
茶封筒の中身はお金だ。毎月だいたい決まった日に届く。
この老夫婦は一度もそのお金を使ったことはなかった。すべて孫娘サラのためにとってあった。
お金を毎月送ってくる男のことは、この家の主人ゲオルク・K・ショールズしか知らなかった。
夫人リンがお金を隠し終えると同時に籠いっぱいの野菜と何やら瓶の入った籠を持って孫娘が家の中へ入ってきた。
「それじゃあ、おばあちゃん行ってきます」
「気をつけて。帰りは明日の昼頃かい?」
軽く頷き玄関から籠を持って外へ出て行く。
「じゃ、リン。しっかり戸締りをしておくんだぞ。行ってくる」
とこの家の主人も孫娘に続いて外へ出て行った。

20100120(past up unknown) writer 深飛


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