Lighted Darkness
 -under children〜暗い陽の下の子供〜-



彼女はというと、会釈したイゼルを一瞥はしたもののほとんど、反応は示さなかった。
そして、その美女の後に続いて体躯の良い老紳士がイゼルの方に向かって歩いてきた。
イゼルは、深くハットは被ってはいたものの、その独特の雰囲気を醸し出している老紳士に見覚えがあったことに驚いた。
そう、この院と同様に仕送りをしている先の主だったのだ。
その老紳士―ゲオルク・ショールズ―も、イゼルに気付いたようで軽く会釈をして孤児院の中へと入っていった。
イゼルは何か、引っ掛かるものを感じたがさして気にも止めず、警察に向かうべく街中へと向かった…。



孤児院の門をくぐったサラは、数人の少年達とサッカーをしているこの院の職員で幼馴染のジャンの姿を認めた。
そして、声をかけようとした瞬間…笑顔でどこからともなく走ってきた少女・シリィ―シェルシーナ―のタックルを受けた。
「サラー!!」
ドゴッ。
サラはいつものように走ってきたシリィを抱きとめる。
「こんにちは、シリィ」
「サラ、こんにちは!!」
愛くるしい少女に、普段はめっきり笑わなくなったサラも微笑む。
「今日も、パン作りするんでしょー?シリィも手伝う!!」
サラは微笑んで、シリィの頭を撫でた。
「サラ!」
そこで、若い男の声がサラの名を呼んだ。
「・・・ジャン」
「今日は、じいさんも一緒なんだな。さっき置くに入ってったぞ」
「あぁ、何か用があるって…」
「そうか」
「せんせぇ?もういい?パン作りするからー」
「あぁ、いいよ。シリィ」
「じゃ、行こう!サラ!」
そう言うとシリィは、サラの手にあった小さい方のかごを持ち、サラの手をひいて建物の中へと入っていった。
と、そこへ物陰から見ていたテイラーを含む少年達がジャンの元へやって来た。
「先生?毎週、サラ来てるけど何であんまり笑わないの?」
「先生とサラってどんな関係?」
「なんでシリィにしか、笑ってくれないの?」
などと、口々に発している。そんな彼らにジャンは苦笑しているだけだった。


一方・・・
「今日はまた、如何なさいましたMr.ショールズ。ご夫人はお元気でして?」
「えぇ、相変わらず。毎日、編み物に精を出していますよ。貴女によろしく、と言っていました」
そう言って、その雰囲気には反する人の良い笑みを浮かべる。
「そうですか」
院長のエリオッティ―シスター・エレン―も微笑む。
「今日は・・・貴女に頼みがあって来たわけなんですが…聴いていただけますかな?」
「えぇ、もちろんです。何でしょう?」
その微笑を一段と深いものにして、シスター・エレンは言う。
「実は・・・サラのことで、お願いがあります」
「…サラ…のことですか?」
「はい」

20100121(past up unknown) writer 深飛


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