Lighted Darkness
 -under children〜暗い陽の下の子供〜-



時、同じくして聖リグー孤児院では、サラがシリィや他の女の子たち、それに女性職員と共にパンを作っていた。
「 アン先生…差し入れです 」
サラは籠にたくさん持ってきた野菜をアンと呼んだ職員に渡す。
「まぁ、サラ!こんなにたくさん!いつもありがとう」
彼女は優しく微笑む。それに対してサラは、 いえ ≠ニ短く答えるだけだった。
「サラー、このくらいのかたさでいいのー?これ」
一人の女の子がサラを呼んだ。
サラはその子のもとへ歩いていって、パンの生地の固さをみる。
サラは何も言わずに、微笑んでその子の頭を撫でた。
すると、シリィがやってきた。
「サラ!私のもみて!!」
そう言ってサラを引っ張っていく。それを見て職員たちはみな、苦笑する。
「シリィ、またサラ一人占めするのー?」
先程とは別の女の子がいった。シリィはピタッと動きを止める。
「・・・?」
サラは不思議に思って、シリィの目の高さまでかがんだ。
「べつに…」
「ん?」
「べつに、一人占めなんてしてないもん!!ふぇー」
シリィはサラの首に抱きつく。
サラは優しくその背を撫でてやる。泣く原因となった言葉を言ってしまった子がいった。
「シリィ…ごめんね?サラー、シリィ怒る?」
そう、恐る恐るサラに訊ねる。
サラはその子に微笑み、次にシリィに問いかける。背を撫でながら。
「シリィ…怒ってるかな?」
シリィは頭を横に振る。
「エリー、シリィは怒ってないよ」
「よかったー!」
そう言うとエリーと呼ばれた女の子は作業に戻った。シリィは、まだ抱きついたままだったが…。


そして数時間後。夜10時を過ぎた頃だった。
子供たちは、各々の部屋に入り、寝ている者もいれば、好きな事に興じている者もいる。
  サラはシスターの部屋で、宿直の職員とシスターを共にお茶を飲んでいた。
「それでは、私たちは見回りをしてきます」
そう2人の女性職員が部屋から出て行くと、サラとシスターの2人きりになった。
短い沈黙が訪れる…。先に口を開いたのは、意外にもサラだった。
「今日…」
その声は、微かにしか聞き取れないものだった。
「?何かしら?どうぞ話してみてちょうだい」
シスターは優しく言う。
「祖父は何を話に来ていたのですか…?」
「あなたのことよ、サラ」
「私…ですか?」
「えぇ。どこかに骨のある若者はいないか、って仰られていたわ」
「……ったく、すみません、シスター」
「いいのよ、別に。それより…」
とシスターが何か言いかけたとき、外扉がドンドンと叩かれた。
そのすぐ後、見回りに行っていた職員の大きな声が聞こえた。
「…何ですか!?あなたたちは!!」
サラとシスターが何事かと、顔を見合わせ立ち上がった瞬間。
後ろ手に捕らえられた2人の職員と数人の男たちが部屋に入ってきた。
「お前が此処の院長か?」
そう、その男たちの頭らしい男がシスターに言った。
どうしてこういう時に、ジャンが宿直ではないのかと思いながら
「そうですが…彼女たちを離してくださいませんか」
と気丈にも、男の目の前に立って答えた。しかし、男は
「ここに保管してある金モノを全て出せ!」
と、シスターの言葉を無視して言ってきた。続けて
「子供のための寄付金があるだろう、全部持ってこい!」と。
「此処にはありません。どうぞ、お引取り下さい」
そう言うシスターに、職員の腕を捕らえている男が言った。
「金を出さないなら、この女たちは連れていく」
「「「それは…!」」」
職員とシスターの声が重なった。そこで、今まで黙っていたサラが口を開いた。
「…何が目的だ…」
「「「「……?……」」」」
男たちは声の主―サラを見た。
「彼女たちの手を離せ。此処に寄付金はないと言っている。さっさと失せろ」

20100121(20051122) writer 深飛


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