Lighted Darkness
 -under children〜暗い陽の下の子供〜-



「何だって?オイ、聞いたか。失せろ、だとよ!」
「威勢がいいし、おまけに上玉だ。この女も連れていくか?高く売れるぜ」
男たちは下卑た笑いを浮かべて、サラに無遠慮な視線を送った。
前傾になったサラを制して、シスターは一歩歩み出る。
「どうか、お願いします…ここには何もありません、お引取り下さい」
「この…イタリア女が!」 リーダー格の男が彼女の頬を容赦なく打った。
職員の女性たちは押し殺した悲鳴を上げたが、サラは違っていた。
「サラ!やめてッ!!」
シスターは彼女の次の行動を予想したのだろう――普段めったに出さない大声で叫ぶ。
素早い踏み込みでサラが向かってきたのを、シスターに手を上げた男は呆然と見ていた。
低い体勢で腹部に体当たりされ、その男はもんどりうって倒れた。
ふらついたものの、サラは何とか立っていたが次の瞬間、目の前が真っ白になって倒れていた。
何が起こったのか、すぐに理解できる――ようはシスターと似たような状況にサラは遭っていた。
違うのは、武器を使って側頭部を殴られたのだ、ということ。
「…ッ!」
身を起こしかけたところで、思い切り引っ張られる。サラは傷みに耐えながら、
自分の両手首を掴んでいる男を睨みつけた。シスターは悲痛な声で叫ぶ。
「やめて下さい!…人を、人を呼びますよ!」
「人が来る前に逃げればいいだけだ。おい行くぞ」
「院長せんせ…?」
その時、男たちが入ってきたドアの戸口に、一人の少女――シェルシーナが立っていた。
寝間着姿でディープ・ブルーの瞳をぱちくりさせている。
状況が掴みきれていないのか、少女は硬直した。サラは叫んだ。
「シリィ、逃げて!」
「えっ…あ、サラ!?」
「逃げなさい!!」
「つかまえろ!」男のうちの誰かが言った。
そこでようやく事情を理解したらしいシェルシーナは、今にも泣き出しそうな感じではあったが、
子兎のように戸口から逃げ出した。が、すぐ後を男の一人が追う。
その直後―――。
どすっ!
ドアの間を、ゆっくりとのけぞり倒れてゆく、その男が通過していった。
「マッコイ!?」 倒れていった男の名(らしい)を一味が叫ぶ。
続いて戸口に姿を現したのは、アッシュ・ブロンドの長身の男。
右手で眼鏡をはずして、胸ポケットにしまいながら、その青年は言った。
「今晩は。いやぁ…取り込み中ですね」
「な、何だお前は!マッコイに何をした!?」
「辞書で鼻を叩いただけです。お構いなく」
と、青年――イゼル・ヘインズはあっさりと告げてくる。左手に持った辞書はなかなか厚い。
「ドクター、やめて下さい。あなたまで…」弱弱しい声でエリオッティが止めようとするが。
「大丈夫ですよ。ええと。君達、夜騒ぐと狼に食われるって知らないのかい?」
イゼルの言葉を、男たちは挑発と受け取ったのか、職員を押さえていた二人の男は、捕虜を突き飛ばす。
リーダー格の男が、凶悪な笑みを浮かべた。
「その狼が、お前だって言うのか?腰抜けのまちがいだろ――んがッ!?」
どごっ――鈍い音を立てて、辞書はリーダーの顔面にめりこんでいた。
哀れな男は辞書と共にその場に落ちた。
「お、おい!しっかりしてくれ!…て、てめぇ!何しやがるッ!!」
「もう少し静かにしてほしいな、子どもが起きるし…私もあまり気の長い方じゃない」
言いながら、イゼルが、意識のある男たちに向けたのは。
赤く錆のついた長柄斧(ブローヴァ)だった。
「…さぁて、誰から来る?新入りさん」
男たちは気絶した仲間をひきずり、我先に、と逃げていった―――。
「冗談なんだけどなァ…」
イゼルは錆びた斧を見ながら呟いた。
後ろからくっついてきたシェルシーナが、こわごわと尋ねてくる。
「お兄ちゃん…それ本物?」
「複製だよ」短く告げて、イゼルはへたり込んでいる職員2人の無傷を確認した。
「シスター、大丈夫ですか?」
「えぇ。私は平気です。それより、サラを看てあげてください」
「わたしは…」
平気だと言う前に、イゼルが彼女の前にかがみ込む。
「名前は?」
「……サラ・ショールズ」
「…サラ、でいいか?立てそう…でもないか。失礼」
イゼルは、サラの返答を待たずに彼女を抱き上げた。
「ちょッ…!」
「シスター。医務室へ案内して下さい。湯と清潔な布を用意して頂けますか、それと明かりも」
「えぇ、わかりましたわ。ミゼーラ、お湯を沸かして。ダイアナは布を。シリィは私たちといらっしゃい。ドクターこちらです」
サラは下ろしてほしい一心で、エリオッティに訴えた。
「シスター!わたしは、」
「怪我人はおとなしくしてろ」
が、無愛想にイゼルに一蹴され、医務室まで"お姫様抱っこ"をされるハメになった。

20100122(20060114) writer 相棒・竜帝


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