Lighted Darkness
 -under children〜暗い陽の下の子供〜-



その男はこちらの方を見ると、他の常連たちへの挨拶をしつつ、
カウンターの方へとやって来た。彼は至極当然のような顔でイゼルの隣に座った。
ブラウンの髪は手入れが行届いており、ダークブラウンのスーツはややくたびれてはいるのに何故かこざっぱりした印象を受ける。
「やあ、親友。よく一人で来れたなぁ、お兄さんは嬉しいぜ」
男は親しげに、イゼルの肩を叩いて、チャーミングな笑顔を浮かべる。
サラのリキュールを飲もうとしていたイゼルは、むっつりと横目で男を見る。
「よう、ロバート。お前の知り合いか?」
ゲイルが仕事の片手間に訊いてくる。男―ロバートはイゼルの肩に手をおきながら答える。
「知り合いもなにも…」
「全くの他人です」きっぱりとイゼルは言い切った。
「そう、全くの…って、何言ってんだ。俺たち親友だろっ?」
「別に」
「またお前は。冷たい奴だなっていうか、つれないぞ」
「お前ら本当に親友なのか?」
笑いながらゲイルが言った。微苦笑して、ロバートは何か口を開きかけたが。
「あれ、サラ?」目を丸くしてようやく気づいたように言う。
「今日は非番の日じゃなかったか?」
「あぁ。今日は…」
「ロバート」サラの言葉をさえぎって、イゼルが言った。
「検索するのは、お前の欠点だ。そろそろ直せ」
嘆息まじりに呟く姿は、暗にロバートと親しい仲であることを認めていた。
だが、彼の雰囲気が少しだけ変わっていることにまだ気づく者はいなかった。
「はいはい、わかったって。お前は俺の親父か。イゼル老けたな」
「…バカか?」
心からつまらない見世物をみるようなイゼルの冷え切った眼差しに、ロバートも少しだけ傷ついた顔をした。
「だから、視線まで小馬鹿にしたような顔すんなよ…」
「小馬鹿じゃない。馬鹿にしてるんだよ」
薄情にもイゼルにはっきりと明言されてしまったロバートは低くうなってから、「いつものやつ」と注文した。
「おやっさん、すぐもどるから忘れずにつくってくれよ」
「当たり前だ」とゲイルは答える。ロバートはその返答をしかと聞き届けてから目配せをし、イゼルと連れ立って席を立った。
カウンターから離れたテーブルに座り、イゼルとロバートは軽い内輪話のように話し始める。
「可能な依頼は1つぐらい。明日また交渉するけどな」
身を乗り出すように切り出したロバートと対照的に、イゼルは淡々と要点を訊ねた。
「何件あった?」
「6。どいつも折れなくてね。モノ・・の処理には一切携わらないっていう条件は考え直した方がいいかもな」
「人間関係の拗れや損益を、相手方を強制的に退場させることで解決したがるような人種が、好条件を要求すること自体がそもそもおかしい」
身もふたもないような友人の言葉にロバートは肩を小さく竦める。
「まぁ、意見の一つとして言ったまでだから、この事だけはお前の意見を尊重するよ。
あぁ―それとお前が言ってた奴ら……さっき来る途中で見たぞ。後ぐされないようにな」
ロバートは前髪をくしゃっと撫でつけながら言う。イゼルは素知らぬ顔で告げた。
「あいつら明日にはもういない。問題はない」
「特に心配はしてないんだけどな、こっちは。ところで、彼女…サラ、な」
意味ありげに言葉を切り、ロバートは正面に座る親友の顔を見る。
ロバートの言わんとすることの掴めないイゼルはかすかに眉を寄せ、目だけで問う。
「お前気づいてるか」
「何を」
「あの子、クレアの妹だぜ」
「……はめやがったな?」
低く吐き捨ててから、イゼルは席を立った。歩きかけたイゼルにロバートはさも心外だというふうに声をかける。
「何でもかんでも、俺を悪者にするなよ!」
イゼルは無視して、カウンターにもどって来ると一気にグラスをあおった。
息をついてから、イゼルはサラをまっすぐに見た。
「急用ができたので、失礼させてもらう。ごちそうさま」
「あぁ…」
「――それと、いい声だな。歌手シンガー になれる」


2010/01/26(20060205) writer 相棒・竜帝


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