Lighted Darkness
 -under children〜暗い陽の下の子供〜-



「…ありがとう、でも歌は…苦手なんだ…」
サラの言葉を聞いてから、イゼルは目礼だけして静かに店を出た。
と、ロバートがカウンターに戻ってくる。
「おやっさん、イゼルの奴、ここに来たことあったのか?」
ゲイルはロバートを見ずに答える。
「いや、今日が初めてだ。なかなか、いい男だな」
「だろ。にしても、何でここに来たんだ…あ、別にここが悪いとか言ってるんじゃないぜ」
ロバートは一応、弁解する。
「わかってる。なぁ、サラ」
サラは微かに頷く。
「で、何でここに来てたのかわかるか?おやっさん」
「あー、サラと一緒に来てたぞ」
「へっ?」
ロバートはあまりにも、予想していなかった答えが返ってきたため、そんな間抜けな返事しか出来なかった。
「サラ?あれと面識あったのか?」
「いや、無いけど…」
「じゃあ、なんでだ?」
「たまたま…」
「たまたま?」
「同じ孤児院に用があって…一緒になっただけだ」
「へぇー、そうなんだ」
「…?なんだ?」
「いや、なんでもないさ」
「ロバート」
「何だ、おやっさん」
「あんまり、サラをからかうな」
「アハハ、でもなぁ、そうは言われても…」
ロバートは、楽しいことを発見した子どものようだった。
「…ゲイル、そろそろ帰るよ」
「あ??一人で大丈夫か?」
「あぁ」
そう言うと、サラは入ってきた時とは逆に、ベストと短エプロンを外し、カウンターの外へ出る。
そして、ドアの方へと歩いていく。
と、そこへ声がかかった。常連の一人アギーという若い男だった。
「サラ!送ってくよ!!」
「アギー?」
「いや、俺ももう帰るし、最近この辺物騒だからさ」
そう言って、ゲイルの元に代金を置き、サラを追ってきた。
「サラ、そうしてもらえ。俺も安心だ」
ゲイルの言葉に、サラは頷き、アギーと共に店を後にした。


20100126(20060205) writer 深飛


LD TOP


inserted by FC2 system