Lighted Darkness
 −over children/under adult 〜早熟な若者たち〜−



とそこへ、ジャンが出勤してきた。
「おはようございます、シスター…とドクターに、そちらは?」
ジャンはミラに目を向ける。
「私はノッティンガム市警、警部のケインウッド・ミラです」
とミラはジャンに手を差し出す。ジャンもその手を握り返し応える。
「あ、あなたが。私はここの職員のジャン・テジックです。ところで、シスター?なぜ、こんな朝早くにドクターと警部が?」
ミラは「私が…」と昨夜の出来事を手短にジャンに話す。
「じゃあ、…サラも怪我をしたと?」
「えぇ、そんなにひどくはないのだけれど…。それにドクターが処置をしてくださって」
え?っとジャンが視線をイゼルに向ける。
「たまたま近くに来ていて寄ったら…深い理由はありませんよ」
「そうですか、まぁ、ありがとうございました。彼女…サラは幼なじみなんです」
「そうでしたか」
と、イゼルが何かを言う前にミラが口を開いていた。
「警部…?」
ジャンの声と共にイゼルとシスターの視線もミラに注がれる。
「犯人の衣類と殺された人間のものが一致するか見ていただきたいのですが…彼女に今連絡は取れますか?」
「警部!?」
とシスターが声を上げるが、ミラはひたすらジャンの目を見つめる。
「…わかりました、連絡をとりましょう」
「ありがとうございます」と言うミラの声に「ジャン!!」と言うシスターの声も重なる。
イゼルは伏せ目がちにジャンを見ているだけだった。

―ジリリリ、ジリリリ―
「はい、ショールズ」
ゲオルクが電話に出るとよく聞き慣れた声がした。
「どうした、ジャン」
『じいさん、サラがいたら出してほしいんだけど…』
「サラか?」
と、ゲオルクがサラ≠ニ呼ぼうとして振り向こうとした時、すでにサラは横にいた。
ゲオルクは少々驚くが、ジャンだ、と言って場所を渡す。
「もしもし?」
『あ、サラか?ちょっと待ってくれ』
『もしもし?サラ・ショールズさんですね?』
「はい…あなたは?」
『私は、ノッティンガム市警・警部のミラと言います』
「どういったご用件でしょうか?」
ミラは若い女性が警察という単語に対して、何の反応も示さないことに驚いた。
『失礼ですが、昨夜、聖リグー孤児院に男たちが押し入った時に、孤児院の方にいらっしゃいましたな?』
「………仮に、何らかの協力の話でしたら…」
『はい』
「今晩、そこから30分くらいの所に…ラコステというバーがあるので」
『そこに行け、と?』
「ええ、そこで…手伝いをしています」
『わかりました、では』
「待って下さい、シスターに…」
『わかりました、シスター…』
電話先でミラがシスター、エリオッティと変わる。
『もしもし、サラ?』
「あ、シスター…その、シリィは…?」
『大丈夫よ、いつも通りに過ごしていますよ』
「そうですか…よかった」
『えぇ、ありがとう。心配してくれて』
「いえ、では…失礼します」
『ミスターとミセスによろしくお伝えしてね』
「はい…」
と、そこでサラは電話を切った。
「その傷と関係しての事か?」
ゲオルクの低い声が飛んで来た。リンも心配そうにサラを見ている。
「今夜は…一緒に来ててほしい」
珍しく、サラから頼まれゲオルクは訝し気にサラを見る。
「…酒が入りそうだから」
何を言わんとしているかを悟り、分かった、とゲオルクは返した。

一方…
「シスター、ラコステというバーは…」
とミラが言いかけた時、イゼルが口を開いた。
「警部、案内しますよ。知っていますから」
知っているといっても、昨夜サラを送っていった時に初めて知ったわけだが。
「それは助かります。では、頼みます」
「じゃあ、シスター…俺は仕事に」
と、ジャンは三人のもとから離れていった。


午後八時――in ラコステ
サラはいつものようにベストとエプロンに身をつつみ、カウンターの奥にいた。
ゲオルクはカウンターの端―入口から最も遠い席―に座っていた。
「で?俺の店でか?」
「おい、ゲイル…あまり突っこむな」
「・・・わかったよ、親父」
と、そこへ…お待ちかねの人物がやって来た。
カラン、カラン――
「いらっしゃい」
「こちらに、ミス・ショールズは…」
「私です」
ミラと一緒にやってきたイゼルの姿を認め、サラは一瞬驚いた。
しかし一瞥したのち、何でもないようにミラの前に進みでる。
「あぁ、あなたが。初めまして、私は今朝お電話したミラです。今回はご協力ありがとうございます」
「いえ、とりあえず…奥のテーブルにでも」
サラはまるで、普段の人を寄せ付けない雰囲気とは違った。
と、そこで思わぬ人物から声があがった。それは…
「ケイン…兄貴は元気にしているか?」
ゲオルクだった。言葉をかけられたミラは首を傾げる。
「…あなたは?」
「サラの祖父で…元陸軍のゲオルク・K・ショールズだ。覚えていないか?」
少し記憶を巡らせたらしいミラは、ハッと思い出したように声をあげた。
「あぁ!ジョージ兄さんと同期の、これはこれは」


20100208(20060207) writer 深飛


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