Lighted Darkness
 −over children/under adult 〜早熟な若者たち〜−



すぐに人の好い笑みを浮かべ、ミラはすっと右手を差し出した。ゲオルクはその手をとり、厳格な顔つきをふっと和ませる。
「いやぁ、お久しぶりですね。ご壮健そうで何よりで…兄とは大違いだ」
「というと?」
「少し前に乗馬で腰を痛めまして…落馬でそれだけで済んだのが不幸中の幸いですが」
「話を聞く限りでは元気そうだ…ところで、ケイン。彼は?」
ゲオルクは気になっていた事のうちの一つを質問する。
話の先を向けられたイゼルは愛想笑い一歩手前の、相手にささやかな好印象を与える程度の微笑を浮かべる。
「イゼル・ヘインズと申します。貧民街スラム で開業医を…以後見知りおき下さい」
そう告げて会釈だけをした青年に、ゲオルクはシスターの話を思い出したが、同時に妙な既視感も覚えた。
「失礼だが、どこかでお会いしたかな…?」
青年医師は、小さく目を見張ってから微苦笑する。
「そうですね…私の記憶が正しければ、貴方とは一度お会いしています。あの孤児院の前で…」
「それは覚えている。その時以前には?」
「いいえ。ないと思いますが?」
イゼルは困惑ととれる苦笑を見せる。
「そうか」短く答え、ゲオルクは黙ったように見えた。
「立ち話も難ですし、話は掛けてからでも…」
「こちらへ」
ミラが気をとりなおしたように言い、サラが皆をテーブルに案内する。
その時、ゲオルクは声を低く落としてイゼルに告げた。
「サラには姉がいた、」
呟きにも似た言葉にイゼルは怪訝そうに眉を寄せて、老人を見る。
彼は厳かに告げてくる。
「――だが、三年前に死んだ」
「それは……」
「君は知っているだろう。名はクレア。クレア・ショールズ。そして、
 …死亡診断をしたのは、イゼル・ヘインズ医師。君だ」
イゼルの目がニ、三度瞬いた。
一瞬の間があり、彼は答えた。
「…そうでしたか?」
「覚えていらっしゃらないようだ…失礼を」
「いえ。こちらこそ申し訳ない」
目を伏せて青年は言ったが、口にのぼらせたことと正逆のことを老人の背に向け胸中で暴発させている。

(誰が忘れるか)

イヤな爺さんだ、とイゼルは決めつけた。


20100208(20060208) writer 相棒・竜帝


LD TOP


inserted by FC2 system