Lighted Darkness
 −over children/under adult 〜早熟な若者たち〜−



「では、間違いありませんね?」
朝早くに、孤児院でミラがシスターに見せた死体の衣服をサラは昨夜の強盗の一人が身につけていたものだとはっきり言った。
「えぇ、間違いないです…。しかし…」
「しかし?」
サラの言葉をミラは繰り返す。
「私に訊くまでもなく、断定出来た人がいるはずですが?」
「シスターは気が動転してらしたようで、はっきりとは…」
「いぇ…シスターではなく、…ドクターですよ」
イゼルは不意に話の矛先を向けられたが、クレアの事を思い出していたため一瞬、反応に遅れてしまった。
 「…は、い?」
珍しく間抜けな声を洩らした彼を見る視線の色は三者三様だ。
中でも比較的友好な視線のミラが穏やかに言った。
「確かにそうです。ですが、証人は多いにこしたことはありませんからね」
「それに…私は断定できるほどの確信はなかったので」
嘘半分事実半分の台詞を吐いたイゼルはサラをじっと見つめる。
「何故ですか。あなたは…」
「私は彼らを覚えていなかったんです。正確に言うと覚えていたのは人数と性別と体格くらいでしたから…服装や顔立ちには自信がなくて」
実際、イゼルにとって人を記憶すること自体が億劫なことであった。
記憶する価値があるか、ないか。覚えている必要があるか、ないか。殺す必要があるか、ないか。
彼の基準は大まかにいうとそれだった。直後、殺した相手のことを忘れもする。
「今回私は、5人という数と全員男だということで孤児院に来た人たちなのでは、と思っただけですからね。
 …まぁ顔を覚えていても無駄ということもありますし」
「無駄?」
非難する調子でゲオルクが訊き返した。ミラは苦笑して言った。
「いえ、今回の被害者の無事な部分は服くらいのもので、
 顔などは変形しているか切り落とされているものが…っと失礼、
若い女性の前で話すことではなかったですね」
「別に」
サラは素っ気なく答えた。
「それで…今回も、君が検視をしたのか?」
ゲオルクが多少、先程の無駄≠ニいう言葉を気にかけながら言った。
イゼルは苦笑めきながらも「そうです」と答えた。
「ヘインズ医師には、警察の方から…というより、私の方から頼んでいるんです。信頼できますからね」
とミラが言うと、サラが控え目に切り出した。
「警部、確認も済んだので仕事に戻りたいのですが…」
「あ、そうですな。ご協力ありがとうございました」
「いえ、では…失礼します」
とサラは、イゼルを避けるようにして仕事に戻った。
「しかし…世の中も物騒になったものだ…」
ゲオルクは、イゼルの顔を見ながら言った。
「私の顔に何か…?」
イゼルは、それこそ作り笑いだと、わかる人にはわかる笑みを浮かべて言った。
「いや、孤児院のシスターが…君が…いや、何でもない。ケイン、もう署に戻るのか?」
「ええ、確認も取れましたし、まだ仕事が残っているので。ドクターはせっかくだ、少し飲んでいったらいい」
とミラは人の好い笑みを浮かべる。
「いえ、私も…」
――カラン、カラン
「おぁ、心の友よ、また来てたのか!」
そこへ…いつでも陽気なロバートがやって来た、入れ違うようにしてミラが店から出ていく。
「よぅ、ロバート。今日はいいのが入ってるぞ」
とゲイルが声をかける。
ロバートはゲイルと話し込む……一方。

「ドクター、私もこれで失礼させて頂くよ。まぁ、友達も来たようだし、ゆっくり飲んでいくといい」
イゼルは愛想笑いで返した。
「サラ!」
サラがゲオルクの方へ顔を向ける。
「私は帰るが…彼に何か作ってあげなさい」
サラは一瞬、イゼルを見るが軽く頷く。
「いえ、そんな…」
「いいから、気にするな」
そう言うと、ゲオルクはゲイルに一言かけて帰っていった。
「おい、奥へ移るぞ」
声を低めてロバートが言ってきた。
席を移動してたら、ゲオルクの言いつけ通りにサラがイゼルのもとへグラスを持って来た。
「ギムレットだ」
そう、一言つげてサラはカウンターの奥へと戻っていった。
「さっき…話してた爺さん、クレア…サラの爺さんだろ?」
イゼルはロバートに目を向けるが、何も言わない。
「まぁ、いいか。…いいのが来てる、何でも・・・ 有りで50歳前後の貿易商の男だ」
そう言って、メモ書きを渡す。
「…依頼主は?」
「長男と…若い奥様だ。まぁ…財産目当てが妥当だろうな…」
「理由は関係ない…まぁ、わかった」
「そうか…ところで」
イゼルは無言で先を促す。
「サラとは何か進展したか??さぁ、お兄さんに、っぐぎぃッ!!?」


2010/02/08(20060210) writer 深飛/竜帝


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