Lighted Darkness −over children/under adult 〜早熟な若者たち〜− ロバートは奇妙な悲鳴を上げて飛び上がらんばかりであったが、 電光の速さで飛んできたイゼルの手に頭を押さえられ、やむなくテーブルに突っ伏した。 ガン、という鈍い音――それも種類の異なった音が二つ――が店内を一瞬だけ沈黙させる。 サラすらも驚いて目を見張る次第である。 「イぃ〜ゼぇ〜ルぅ〜…お前ぇ…」 端正な作りの顔を痛みに歪ませて、ロバートはイゼルを恨めしげに睨み上げる。 その視線を涼しい顔で受け流し、イゼルはグラスに口をつけて訪ねる。 「随分奇特な発作だな。いい医者を紹介しようか? 医者だったら、たーくさーん知り合いがいるんだ。脳外科から精神科まで何から何まで」 「はいはい、オレが悪かったよ。すいませんでした!そんな野暮なこと聞いたオレが無粋で・し・た・よ!!」 「…三日後だ」 イゼルは低く告げる。すると形の整った鼻をさすっていたロバートが軽く目を見張った。 「明日は?」 「動けない。三日後だ」 「むぅ…となる、と…オイ、ちょっと待て。理由は?」 「警察がまだ張りついてる」 「あ、やっぱお前なの?…って!」 テーブルの下でロバートの革靴がイゼルの鉄骨ブーツに踏まれた。もう一つの鈍い音の正体はこれである。 顔をしかめてみせた友人にむかって、イゼルは冷笑する。 「正当防衛だ。ちゃんと忠告もしてやった」 「親切なこって。出るぞ、多少打ち合わせないと…支障が出る」 「どういう支障かは聞かないぞ、一応」 「さぁ、行くぞ。出た出た!」とロバートは酒代をテーブルに威勢よく置いた。 ロバートにせき立てられて、イゼルはグラスを一気にあおってから立ち上がる。 「おい、大丈夫か?」 心配そうに覗きこんできたロバートを無言で押しやり、彼はそのままカウンターへ向かう。 「サラ」 作業をしていたらしい彼女は少し驚いたように顔を上げ、イゼルを見る。 静かな漆黒の眼差しはどこか優しく見える。 「妙なことに巻き込んですみません。それと…ありがとう」 「…いや別に」 「また会えるといいですね。どこかで」 表情が和らぐのが辛うじてわかる程の微笑をして、イゼルは踵を返した。 サラは黙って、その後ろ姿を見ていた。 20100208(20060210) writer 相棒・竜帝 ← → LD TOP |