Lighted Darkness −strange visitors− この日、サラは久しぶりに趣味の洋裁に手をのばしていた。 春色―――つまりは薄い桃色の生地でワンピースを作っているのだった。 無論、サラ自身が桃色の服を着るわけではない。 これは彼女への―――シェルシーナへの、贈り物である。 いつだったか、サラが自分で作った黒のノースリーブを着て院へ行った時に、職員と洋裁の話で盛り上がっていたところに、 彼女がやってきて作って?≠ニ頼まれたのだった。 あれから、確実に一ヶ月が過ぎていたが、約束は必ず守る性格なので、今日の午後にも届けてやりたかった。 ふと、サラは明朝のことを思い出した。 (あいつは・・・何なんだ?) 今度、部屋に遊びに来ないか? (・・・どうして、あんな事を言ったのだろう・・・) 「今夜も来るのか…?」 そう思った時、瞬間的に誰かの顔が頭によぎった。 (・・・誰?) それは、あまりにも一瞬だったため、誰かわからなかった。 サラは出来上がったワンピースを箱に入れ、それを持って孤児院へと向かった。 この日は、ジャンが出勤しているはずだった。 (あ・・・今日はジャンがいる日か) 何気なくそう思った。 孤児院に着くと、男の子たちとジャンがサッカーをして遊んでいた。 「あ、サラだ!」 と一人の男の子が気づいてサラの元へと走ってきた。 「サラ、何を持ってるの?」 「シリィと約束したものだよ」 サラは自然と微笑んでいたらしい、その子が少し驚いた顔をした。 「・・・なに・・・?」 「サラの笑った顔、初めて見たー。みんなに自慢してこよー!」 そう言うとその子は走って、みんなのもとへ戻っていった。 (笑って、・・・いたのか?) と思いつつ、サラはシリィのいる建物の中へと向かった。入り口でシリィに会えた。 「サラ!どうしたの?今日は来る日じゃないでしょう?」 「シリィに渡したいものがあって・・・部屋に行こうか」 「うん、いいよ!・・・ねぇ、その箱はなに?」 「お楽しみ」 シリィはきょとん、としていたがサラに手を出されて、慌ててサラの手を引いて部屋に向かった。 部屋についてサラの目に留まったものがあった。 青いリボンを首にした、こげ茶色のティディベア―――サラの部屋にも似たようなものがあった。 偶然だな、と思いつつサラは箱をシリィに手渡す。 「・・・開けてもいいの?」 シリィが目を輝かせて尋ねてくる。サラは微笑んで頷いた。 「うわぁ!すごい!!」 シリィは箱を開けて見えた桃色のワンピースに声を上げた。 「サラがつくったの?!」 「そうだよ、約束していたでしょ?」 「うん!本当に作ってくれたんだ、嬉しい!!」 とシリィがサラに抱きついた時、部屋のドアが二度ノックされた。 「シリィ?先生だよ、入ってもいいかな?」 「イゼル先生?どうぞー」 イゼルはシリィの言葉で部屋に入るが、そこにいる人物に目を奪われた。 「お取り込み中だったのかい?」 「いや・・・」 サラは自分に目を向けてきたイゼルから、なぜか目を逸らした。 「サラがね、ピンクのワンピースをくれたの!サラの手作りなんだよ!!」 「お礼はちゃんと言ったかい?」 「あ、サラ、ありがとう!」 「また作ってあげる」 「お話し中悪いんだが・・・サラ?」 サラはイゼルに目を向ける。 「今夜もラコステには、行・・・きますか?」 「これから真っ直ぐ行きますが・・・」 「ねぇ、ねぇ、ラコステって何?」 「お店だよ」「酒場 だよ」 シリィの問いに、イゼルとサラは互いに顔を見合わせた。 「・・・そこってシリィも行ける?」 「まだ少し早いな」「大人になったらね」 そこで、サラは咳払いをして、シリィの目の高さまでしゃがんだ。 「シリィ、それじゃあ、私は用事があるから今日は帰るよ」 「・・・わかったぁ・・・次はいつ来るの?」 「いつも通り、日曜日かな?」 「そっか、じゃ日曜日待ってるね!」 「あぁ・・・じゃあ、ドクター私は先に」 「待って下さい、一緒に行きます」 「・・・?シリィに何か用事があったのでは?」 「いえ、顔を見に来ただけなので」 「え〜、おにいちゃんも行っちゃうのぉ?」 ぷうっと頬をふくらませたシリィの頭をぽんっと撫でてから、イゼルは少女の顔をのぞきこむ。 「また今度来るよ。シリィがいい子にしていればね、たとえば人にお礼を忘れずにするなら・・・」 「う、うん!するよ、」 「なら、また今度だ」 と、イゼルがにっこりと笑うとシリィはむー、と黙る。 「ドクター・・・そろそろ行くが・・・」 「あ、はい。じゃあ、シリィ、また来るよ」 「うん、サラ、おにいちゃん、バイバイ」 「バイバイ」 サラはシリィの頭を撫でて言った。 じゃあ、行きましょうか――とでも言うように、イゼルがサラに目を向け、部屋のドアを開ける。 「サラ」 イゼルが声をかけ、先に部屋の外へと出る。 サラが続いて部屋から出て、二人はまだ少し時間の早いラコステへと向かった。 ラコステには、まだ時間が早いというのに・・・ ロバートが来ていた。ロバートはサラと一緒にやって来たイゼルに目を見張る。 「・・・いつから、そんな仲になったんだ?」 「・・・誰と誰が・・・?」 ロバートとイゼルはサラがそんな反応をするなんて思ってもいなかったので、思わずサラに目を向けた。 が、サラは知らん顔をして、カウンターの奥へと入っていく。 「ガハハ!二人とも、なに、間抜けな顔してるんだ。サラが気を許してる証拠だぞ?」 「あ、そうなんだ」 ゲイルの言葉を聞いたロバートは語尾にハートでも付きそうな程、上機嫌になった。 一方、イゼルはカウンターに座り、サラがまた勝手に出してきたドリンクを飲んでいた。 「食べないか?」 サラがイゼルの前においたのは、サラダののった皿だった。そして、取り皿とドレッシングらしきものが入った瓶を横に置いた。 「あ、イゼルだけずるい。俺の分は?サラ」 「・・・ちゃんとある」 そう言って、サラはロバートの前にも、イゼルの前においたものと同じものを置く。 「そのドレッシングは、サラの手作りだからな、うまいぞー」 「サラは何でも出来るんだなー、彼女にならない?」 「(…はぁー)ロバート。そんな事ばっかり言ってるから、ちゃんとした相手が現れないんだぞ」 「サラの言う通りだな」 「うぅ〜(泣)サラまで言うことないのに〜」 (この二人といるのは、楽しいな。気兼ねしなくていい) とサラは笑いながら思った。 ふと、イゼルと目が合った。しかし、先程のように逸らすことはしなかった。 「・・・ああいうことは得意なのですか?」 イゼルが訊いてきた。 「ああいうこと?あぁ・・・シリィに・・・?」 「ええ」 「・・・趣味だ」 「何の話だ?イゼル」 「いや、サラがシリィにワンピースを作ってプレゼントをしていたんだ」 「へぇー、サラは家庭的なんだなぁー」 ロバートが感心したように言う。ふと、サラはロバートの格好を見て… 「新しいの(スーツ)、作ろうか?」 とからかった。 「そうだ、シリィにもいつもまたヨレヨレしてるの着てる≠チて言われるしな」 「そうなのか?本当に作ろうか?」 「いや、これが俺だから?サラに作ってもらえるのは、おいしい話だけどな」 「じゃあ、作らないからな」 とサラはフッと微笑んで言った。 その笑った顔があまりにも彼女≠ノ重なって、イゼルは一瞬動きを止めた。と、その時、店のドアが開いた。 「いらっしゃい・・・やぁ、チャーリー」 「ハイ、マスター。・・・サラは?」 「あぁ、向こうの二人につきっきりさ」 ゲイルの言葉に、カウンターの一番奥の二人組を見る。 「へぇー・・・俺が呼んだら、来てくれるかな?」 カルロスは悪戯っ子のような笑みを浮かべて、ゲイルに言った。 「どうだろうなぁ」 「Hey!サラ!」 カルロスは少し声を張り上げてサラを呼んだ。 三人は声のした方を向く。 「あ・・・ちょっと」 と言ってサラは二人の元から、カルロスの方へと向かった。 「あ〜サラ〜行かないでぇ〜」 20100215(20060617) writer 深飛/竜帝 ← → LD TOP |