Lighted Darkness
 −strange visitors−



「この場所、わかるか?」
カルロスは持っていた紙切れをカウンターの上に置いて見せる。
必然的に、サラはそれを覗き込む体勢になった。
「わか」
サラが言葉を発した瞬間に、ビクッと身体が跳ねた。
「な、な、何するんだ!?」
そのサラの少し大きな声に、店内にいたほとんどの人間がサラに目を向けた。
もちろん、イゼルとロバートも。
サラは左手で左耳…あたりの髪、を押さえつけていた。
「あ、すまない…。そんなに驚くとは、思わなかった」
カルロスが謝っているところを、ロバートとイゼルは見ていた。
サラは様子がいつもと違って、そして、そのまま店の奥――ゲイルの自宅に走っていってしまった。
カルロスは何かゲイルに声をかけて、店から出ていった。
イゼルとロバートはその様子を横目に静かに見ていた。
「サラ・・・大丈夫かな?」
ロバートがぼそりと言った。
「さあな」
イゼルは押し殺したような低い声で呟き、皿の中のサラダをざくざくとつつく。
彼らしくもない幼稚なしぐさにロバートは首を傾げた。
「・・・なんか、怒ってないか?」
「別に」
拍車のかかった素っ気ない返答に、次第ににやけ出したロバートは言った。
「おぁ?ジェラシィかね、イゼル君。悲しきは英国紳士かな」
「・・・つまり?」
訊き返されたロバートは芝居がかった仕草で言う。
「ようするに、サラは可憐な乙女だ。洗練されており、どこかつれないが、実は慎しみ深い。そんな彼女には、人間不信一歩手前の紳士ジェントル たるお前よかは、
 さっきの尻だけでなく頭も軽そうなドイツ野郎や、俺のような伊達気取りの方が、ごくお近づきになりやすいと思うだろ?」
「そして近づくだけ近づいて、"いい人"止まりか…」
「お前時々ものすごく嫌な指摘するな?さすがは対成人恐怖症」
「喧嘩を売ってるんなら買うぞ。手加減無しの一本勝負だ」
そう言ってイゼルの手がロバートのネクタイを掴んだのと、ロバートが跳び退くのはほぼ同時だった。
「イゼル、落ち着け。話し合おう。俺は心の痛みは平気だが体の痛みは苦手なんだって前から言ってる」
「最近、俺の耳は時々難聴になるんだ。歯ァ食いしばれ」
穏やかな笑顔だが言ってることは非情である。イゼルはいつの間にか一人称が「私」から「俺」になっていることにも気づいていないようだった。
「お、おやっさん!笑うなよ!」
カウンターの奥で笑いをこらえているゲイルを見つけて、ロバートはわめいた。
だが、それがよくなかった。
ロバートの注意が逸れた直後、その側頭にイゼルの頭突きヘッドバッド がキマッた。
ごつッ!!という鈍い音が店内に響き、あえなくロバートはカウンターに沈む。
「・・・ふっふいうちとは・・・ヒ、ヒキョーなり・・・っ!…」
「歯を食いしばれと俺は言った」
「だぁっはっはっはっ!あんたすました顔してケンカっ早いな!」
笑いながらゲイルはイゼルの肩をばしばしと叩く。
ばつの悪い笑顔を浮かべはしたが、イゼルが取り繕ったりもしないことにますますゲイルは笑みを深める。
「それにしてもだらしねぇぞ、ロバート。いつまでもノビてるんじゃない」
「・・・あのなぁ・・・おやっさん、こいつこう見えても石頭なんだって、あー・・・二日酔い並だっての・・・」
そう呻くロバートの目には涙がたまっていた。

「・・・ゲイル・・・?」
サラが静かに奥から出てきた。
「カルロスなら帰ったぞ。無理しなくてもいいぞ、今日は」
「いや・・・」
サラはノビてるロバートとイゼルに向かって
「騒がしくして、すまない。何か・・・おかわり作ろうか?」
ロバートは然り、イゼルもまたサラの平然とした態度に少々、目を丸くした。


20100215(20060622) writer 深飛/竜帝
イゼとロバはいつだって漫才です。


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