Lighted Darkness −contact point− 店に戻るとロバートは少し陽気になっていた。 サラとイゼルの顔を見るなり、「少し遅かったんじゃないか?寂しかったぞ、俺は」と言ってきた。 そして、隣に座ったイゼルに…絡んだ。 「サラを守るのは、俺とお前の役目だぞ!」 「何を言ってるんだ」 サラがロバートの言葉に苦笑しつつ反応する。 「手紙の奴だけじゃない。サラを狙ってる輩は大勢いるんだ。俺らが守っても問題はないだろ?なぁ、おやっさん?」 「そうだなぁ、ロバートはともかく先生なら安心だな」 「それは、ありがとうございます」 イゼルがゲイルに答えると、ロバートがすかさず反応する。 「ロバートはともかく≠チて何だよ」 「まぁ、まぁ…気持ちは嬉しいが、大丈夫だ」とサラはロバートの発案をやんわりと断った。 「サラ〜、俺は心配して」 そこで、ロバートがいきなりカウンターに突っ伏した。 サラとゲイルは思わず、ギョッとしてロバートを見た。 「・・・電池切れか・・・」 やれやれといった風にイゼルがサラに問いかける。 「こいつを今夜、泊めても…?」 サラはゲイルの顔を見た。ゲイルは全く意に介さないようで快く承諾する。 「あぁ、構わねえよ。サラ…両方出したんだろ?」 「あぁ」 「じゃあ、片方使わしてやれ」 「わかった」 サラはイゼルを見てからロバートを見て、再びイゼルを見る。 「・・・運べるか?」 「はい…」 聞いているゲイルにしてみれば、あまりにもおかしな会話だった。大の大人の男だ。起して自力で歩かせるのが普通だろう。 「シリィの隣のベッドまで運んでくれないか?」 「わかりました」言うとイゼルは立ち上がり、ロバートの首根っこを掴んで、引きずる体勢になった。 「…引きずっていくのか?」 「そうですが」 「起きないのか?」 「大丈夫です」 「そうか」 普通なら納得していいのか、と声をあげたくなるような会話だった。 実際、店の客の何人かは、イゼルがロバートの襟を掴んだのを見て、ぎょっとしたりしていたのだが、全く気にせずイゼルは歩いていってしまった。 時折、ゴツという鈍い音を響かせながら。 「――いつもあぁなのか?」 もどってきてカウンターに腰を落ちつけたイゼルに、サラが訊く。 「ロバートのことですか?」 「あぁ。あんな・・・ぱったりと」 「あれはね、疲れているんです。肉体的というよりは、精神的に」 口の端をかすかに笑いに引きつらせて、イゼルは答えた。 「あれでも新聞記者ですから」 「あれが?」 「主にゴシップと取材担当ですがね」 「成程…」 "ゴシップ"と聞いてサラが納得の声を上げる。本人がいれば文句を言っているところだろう。 「…そういえば、シリィはどうしてDr.を、兄、と?」 ふと思いついたようにサラは訊ねる。 「それは…私がそう呼んでも構わない、と言ったからでしょうね」 「言いたくないなら、はっきり言ってくれないか?」 サラの憮然とした返答に、イゼルは目を丸くして彼女を見た。 「あ、いえ。そういう訳ではなく…気に障りましたか?」 「…いや」 「理屈をこねるような話し方はやめろと言われるんですが……すみません。でも、私にもよくわからないんですよ。 あの子がそう呼んでくれる理由」 嘆息まじりにイゼルは言った。 「確かに書類上は兄にあたるのであながち嘘ではないんですね」 「・・・つまり?」 何を言われたのか、理解できないという顔つきでサラは訊く。 「私は、シリィの母の養子なんです…書類の上では、ですが」 「…昨日といい、今晩といい、ドクターはめちゃくちゃなことを言ってる気がする…」 「でしょう?私もそう思います」 明るい肯定を返され、サラは喉に苦い薬がひっかかった時のような、納得しきれていない、という顔をした。 「実家、と言ったでしょう?昨日の孤児院で。正確に言い直すなら、シリィの母親の実家なんです。私は"息子"として 彼女 の実家に出入りしているんですよ」 「・・・その実家の連中は、なぜあの子を引き取らない?」 「母親無しでは、無価値な行為だからです」 鋭さを含んだサラの言葉に、イゼルはいたって穏やかに答えた。 「私が言ったところで彼らは信じない。彼女の口から直接証言されない限り、シリィは孤児のままなんです。だから…その、私に向かって 怒らないで下さいね?」 話の途中から目元を険しくし始めたサラに、イゼルは曖昧な笑顔を向ける。 「…証言されないかぎり、とは?」 「実家の方々は、彼女 に一人娘がいたことしか知らない・・・けれど、 その少女が母の元から離されて孤児院で育ったこと、12歳になること、母譲りの金髪であること、シェルシーナという名、それら全て 知らなかった。だから、確証を持てない。シリィとその女性のつながりが本物なのかどうか。………けれど、彼女は…他人と話せる状態ではない」 そこまで言うと、イゼルはもうすっかりぬるくなった牛乳に口をつける。 「当事者が一番関わっていないなんて不思議ですよね」 サラは何か言いかけて、すぐに口を閉ざす。彼女の表情にわずかながらの困惑を見て取って、イゼルは心中で苦笑する。 「すみません。何だか、深刻になってしまいました」 「いや…牛乳いれなおすか?」 「あ、どうも」 そう言って、イゼルの笑みに明るさがもどったのを見て、サラは小さく息をついた。 20120123(20060927) writer 相棒・竜帝/深飛 ← → LD TOP |