「あなただけ」 シリーズ有麻+和幸



「樫木さん!」
資料室へと歩いていた優貴は、ふと名前を呼ばれて振り返った。
「須藤くん、どうかした?」
優貴を呼んだのは、優貴や雅嗣と同期の須藤諒助だった。
「いや、姿が見えたから」
そう言って須藤はさわやかに微笑んだ。

この須藤諒助は入社当時から、社内で人気を雅嗣と二分していて女には不自由していなかった。
しかし実際のところ、同期内で一番人気だった優貴を獲得したことからもわかるように、いつも雅嗣に軍配が上がっていた。

「あ、そういえば、見たわよ?この間も、今年入社してきた子に告白されてたわね」
優貴は、須藤の思いも知らずに優しい笑顔でそう言う。
「ハハ、樫木さんには見られたくなかったなぁ」
須藤は苦笑しながらそう言った。
「ねぇ、樫木さん…今度の日曜日、空いてるかな?」
「え?日曜日?」
優貴はどうだったかな、と思考を巡らす。
「あぁ…確か、今のところは何も予定はなかったと思ったけど…」
「ほんとに?それじゃ、ドライブでも行かないか?感じのいいカフェを神奈川の方に見つけて」
「あ、えっと…せっかくだけれど、お断りするわ」
「え、どうして?」
「知ってるでしょ?私が海藤と付き合ってること」
「あぁ、それ。それでも、ドライブくらい良いじゃないか」
「ごめんなさいね、雅嗣以外の男の人とデートしたいと思わないのよ。それじゃ、私、仕事があるから」

須藤が後ろから何か言ってきていたが、優貴はそれを無視して資料室に向かった。


その日の帰り。
「樫木さん!」
「須藤くん・・・」
優貴はエレベーターで1階に降りたところで、また須藤に声をかけられた。
「今度は何かしら?」
「そんなに、警戒しないでくれないか?」
須藤はまた苦笑しながらそう言った。
「日曜日のデートは諦めるけど…今日この後、食事でもどうかな、と思ってさ」
「だから、さっきも言ったとおり」
「いやいや、プライベートなデートってことじゃなくて、一同僚としてね?親交を深めたいな、ってね」
「たいして」
優貴が何か言いかけた時、別な声が優貴の名前を呼んだ。
「優貴!!」
それは、雅嗣だった。
「雅嗣…」
雅嗣は優貴と須藤の方へ、やってきた。
「やぁ、須藤…うちの優貴が何かしたか?」
「いや、ただこの後、食事でもどうかなと思って誘ってたところだよ」
「そうなのか、優貴?」
「えぇ…まぁ」
「そうだ、海藤からも言ってくれないか?他の男とデートするのだって、女を磨く良い機会だって」
須藤は、これぞ名案だ、とでもいうような表情で雅嗣に言った。
「須藤、お前、何言ってるんだ?そんなこと俺が言うわけないだろう?優貴が他の男と2人で出かけるなんて、誰が許すか。おい、優貴、行くぞ」
そういうと、雅嗣は優貴の手を引いてロビーの出口へと踵を返した。
「え、あ、待って。雅嗣。それじゃあね、須藤くん」



ロビーを出て、駐車場へと向かう途中で優貴が口を開く。
「雅嗣でも…あんなこと言ってくれるのね」
「あ?」
「さっきの。あたしが他の男と出かけるなんて誰が許すか、って」
「あぁ…」
「・・・嬉しかった」
優貴がそう言うと、雅嗣が足を止めた。
それに倣い、優貴も足を止める。


「おまえだけだよ、あんなこと言ったの」
「え?それってどういう…」
「今までの女には、好き勝手やらせてた。他の野郎と出かけようが寝ようが何しても、何も言ったことなかったよ」
「・・・」

優貴は何言わずに雅嗣をじっと見つめる。

「本気で愛したのは、おまえだけだ。もちろん、今も愛してるけどな」
そう言って、雅嗣は優貴を抱き寄せ、キスをした。

もちろん、その様子は会社の人間にばっちり目撃されていたが。



 20100113 [20051109]

雅嗣の俺様な部分はどこへやら、優貴への愛が溢れまくってますねぇ(笑)
Special thanks:+smile smile+

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