突然のキス シリーズ怜+篤希



「怜?今日の飲み会、久しぶりに顔出すんでしょ?」

大学も四年になると、まだ卒業単位を取りきっていない者や就職が決まっていない者を抜かせば、暇になる。
海藤怜もその一人だった。
今日は久しぶりに友人とお昼を食べようと、大学構内の食堂に来ていた。

「あー、うん。何かみんなに声かけられたしね」
「みんなの憧れの怜さんは、ここのところ付き合い悪いですからね!みんな必死になって声かけるって意気込んでたわよ」
「…なんか、アンタ、楽しそう」

ニタニタして言う友人に怜は苦笑した。

「ま、いいけど。六時にドンドコなんでしょ?後から行くね」
「え?残ってみんなで行かないの?」
「ちょっと、本屋に用事あってね。ちゃんと行くから心配しないで」

言うと怜は食堂を後にした。



午後六時。サークルの飲み会といえば、ココ、と言われるくらいよく学生が飲み会をしている居酒屋に怜は向かっていた。
お酒は嫌いじゃない。むしろ、好物だ。酔うこともほとんどない。
でも、大勢で飲むのはあまり好きじゃなかった。酔っ払いに絡まれると面倒だからだ。

居酒屋に入り、学生が来てるハズなんだが、とバイトらしき店員に訊ね、席へと案内してもらう。
案内された先では、既に飲み会が始まっていた。

「あ、先輩〜!!久しぶりですね〜!!!待ってました〜!」

怜に気づいたらしい女の後輩が声を上げたことによって、みんなが怜へと声をかける。
それに苦笑して、安全と思しき場所に腰を落ち着かせた。

「ちゃんと来たわね」

怜が座るとそう言ったのは、昼間の友人だった。反対隣には一年生が固まって座っていた。

「来るわよ。これで来なかったら後が恐いから」

とりあえず、梅酒をロックで注文すると友人と話に花を咲かせることにした。



怜が店に来て三十分くらいした頃にもう一人、遅れてやってきた男がいた。
それに気づいた怜はひらひらとその男に向かって手を振った。

「あ、怜さん!」

男は嬉しそうに怜の横、先ほどまで一年生が固まって座っていたところに腰をおろした。

「元気そうだね、栗原くん」

栗原篤希。今年入ってきた一年生の中ではダントツで女子に人気のある人懐っこい笑顔をする青年だった。

「久しぶりですね〜、何やってたんですか?全然、大学にも来ないし」
「卒論のためにちょっと旅に出てたの」
「旅すか?」

怜の答えに篤希は面白そうに笑った。
怜も怜で、久しぶりに篤希に会えたことが嬉しいのか、その頬は緩んでいた。



「ねぇ、栗原くん」

周りはだいぶ出来上がっている者もいた。
その中で怜と篤希は席を動くこともなく、互いにマイペースに軽く食べながら飲んでいた。

「なんすか?」

それまでしていた会話を遮って、名前を呼ばれた篤希は疑問のまんま声にする。

「…ちょっと、顔かして」
「え?」

篤希は怜のいった言葉の意味がわからなかったが、次の瞬間には怜の顔が目に入る。
そして、唇には柔らかい感触。

「ご馳走さま」

悪戯を成功させたような顔で怜は言った。
周りが必要以上にうるさくならないので、今の二人の姿は誰も見ていなかったのだろう。

「え、な、ちょ…怜さん、今…」
「動揺しすぎ、かわいいなぁ」

そう言われたって。みんなの憧れで、でもけっして簡単に男にはなびかないと言われてる怜にキスされたのだ。
動揺しないわけがない。
しかし篤希は、すぐに頭を切り替える。どういう意味で今の行動になったのだろうかと。

「・・・・・怜さん、酔ってるんですか?」
「あら?あたしが酔ったとこ見たことあった?」
「いや、ないですけど…じゃあ、なんで?」
「ん?キスしたいと思ったから。ダメだった?」
「いや、ダメっていうか…」

誰にでも、好きでもない男にでも、そういうことが出来る人だったんだろうかと思う。
そんな篤希の思考を読み取ったかのように、怜が口を開く。

「栗原くんだから、したいって思ったんだよ」
「え、…それって…」
「今は言わないわよ、こんな色気もムードもない中じゃ」

言うと怜は篤希にウィンクして、荷物を持って立ち上がった。

「ちょっと、急用入ったから先に帰るわ」

みんなに聞こえるようにそう言って、怜は一人先に帰っていた。
残された篤希はだんだんと嬉しさと恥ずかしさが込み上げてきて、片手で顔を覆った。

「…ズルイよ、怜さん…」



 20100113 [20061104]

まだ怜も学生だった頃。二人の出会いは同じサークルです。
そして、この頃はまだ怜の方が余裕綽綽です。笑。
Special thanks:+smile smile+

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