助手席 シリーズ怜+篤希 怜は運転が好きだ。 でも、長距離の運転は飽きてくるんだ。 だから、俺と付き合うようになってからは、専ら助手席が怜の専用席。 「篤希ー、ちょっと流しに行かない?」 土曜日の夜。早めの夕飯を終えて、食後のコーヒーを飲んでるところにかかった声。 「いいけど?」 言うと俺は残ってたコーヒーを飲み干して、車の鍵と携帯、財布を持って玄関へと足を運ぶ。 怜も財布に携帯、それと家の鍵をもって後ろからやってきた。 「でも、珍しいな。どしたんだ?」 家の鍵をかっている怜に俺は訊いた。だって、怜から流しに行こうとはあまり言ってこないから。 「どうもしないんだけどさぁー。あ、車の鍵かして?」 「なんで?運転するの?」 「そう、運転するの。…でも、途中できっと飽きるから代わってね?」 俺はその言葉に笑って頷く。そして、車の鍵を渡してやる。 「怜の運転て、性格でてるよなー」 珍しく助手席に収まりながら、俺は思ったことを口にした。 「え?どういう意味ー?」 顔は前に向けたまま、視線をチラッと俺のほうに向けて怜が訊ねてくる。 「そのまんま。いつもはのんびりしてるかと思うと、たまに勢いよくて」 そう、右折の時、たまにオイオイオイって俺が思うようなタイミングで曲がっていく。 今もそうだった。その距離で対向車が来てるなら、普通なら待つだろうってタイミングで右折したんだ。 そんな怜に俺が笑ってると、怜はムッとしたような声で言ってくる。 「別に…今のは行けると思っちゃったんだもん。事故ってないんだからいいでしょ」 「あぁ…いいよ、好きにして」 それでも笑っている俺に怜は拗ねたのか、目に入ったコンビニに入って車を止めた。 「どした?もう飽きた?」 「飽きてはいないけど、篤希の態度が癪に障るから交代。ジュース買ってくるから席替わってて」 言うと怜は運転席を下り、コンビニに入っていった。 戻ってきた怜の手にはテープの貼られた午後ティーのペットボトルと缶コーヒー。 「篤希はコーヒーでよかったでしょ?」 「うん、よかったよ。ありがと」 そう言って、車を出そうとRにギアを入れたら、コンコンと窓が叩かれた。 見ると大学の友人がいた。俺は窓を開ける。 「よぉ!何やってんの?」 そいつは今年になってから同じ講義を取って知り合った他の学科の奴だった。 「え、彼女とデート」 「え?あ、ほんとだー。ドモー」 そいつは怜に向かって挨拶してる。怜も小さく「どうも」と言って頭を下げてる。 「てか、何?お前、彼女いたんだ?」 「いたよ、いないと思ってた?」 「いや〜。女子が栗原はそんな素振りがないからって狙ってる奴多かったからよ」 そう言ってそいつはニマニマ笑ってる。月曜、大学行ったら嵐だろうな…。 「ま、いいや。こんな可愛い彼女さんいたのは驚きだけど、デートの邪魔すんのも悪いしな。じゃあな」 勝手に言うだけ言って、そいつはコンビニに入っていた。 俺は窓を閉めながら、車を発進させた。 「相変わらず、篤希はモテてるんだねぇ」 怜が隣で何ともいえない声で呟いた。 「なに?ヤキモチ?それとも心配?」 「両ー方ー」 「…ッ、どしたの?素直でしょ」 「なに?悪い?」 「いや、…怜」 ちょうど赤信号で止まった。俺は迷わず、怜の名前を呼んで身を乗り出す。 ふれた唇は一瞬だったけれど、それでも俺の想いが伝わればいいと思う。 「大丈夫、俺が愛してふれたいと思うのは、怜だけだから」 「うん…ほら、青になったよ!」 何年経っても不意打ちに弱い彼女の照れ隠しに苦笑して、俺はブレーキから足を離した。 助手席に乗せるのは怜だけ。それは俺がふれたいと思うのが怜だけだから。 20100113 [20061106] 深飛のとある友人(男)はコレ(信号待ちでキス)をやってて 知らずブレーキを踏む力が弱まっていたらしく、前の車にぶつかった、とのことです。笑。 Special thanks:+smile smile+ 恋愛小説好きに50題 |