ある家族の話。―母と(ちょっと成長した)娘の話―



「 ねぇ、お母さん 」
「 なぁに? 」

「 お母さんとお父さんは大恋愛だったの? 」
「 どうだと思う? 」
突然の娘の言葉にも母は動じない。
「 う〜ん、大恋愛だったと思う! 」
「 どうしてそう思うの? 」
母はあくまでも笑顔を絶やさない。
「 あのね?稚林ちゃんがお父さんとお母さんは大恋愛だったって 」
「 あら、ちーちゃんに聞いたの 」
親友で、義姉の名前が出て、ようやく少し驚く。
「 うん、お父さんの背中に残ってる傷はお母さんを庇って出来た傷だから名誉の傷なんだって言ってた。ほんとなの?? 」
「 ほんとうよ 」
母は娘に優しく笑いかける。
「 お父さんとお母さんの話聞きたい! 」
「 そうね、いつか由花にも素敵な人が出来たときに教えてあげるわ 」
「 え〜、そんなに先ぃ? 」
「 きっと、もうすぐよ。由花にもお父さんやお母さん、それに蓮夜よりも
大切だって思える人が出来たら、話してあげる。それまでは内緒よ 」

そういって微笑む母はいつまでも恋する少女の様だった。

父との恋のお話は、息子や娘と同じくらい大切な
母の宝物だから、時期が来るまでもう少し
大切にしまっておこう。
娘に、家族よりも傍にいて支えてあげたいと思う人が現れるまで。

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