蝋燭の明かりと君の声

今年のクリスマスは、怜と篤希にとって、一緒に暮らし始めて最初のクリスマスだった。


怜は初めてということで、ひどく楽しそうにしていて
飾りつけはどうしようとか食べ物はどうしようとか、一ヶ月も前からあれやこれやと考えていた。
篤希はそんな怜を見てるのが楽しかった。



そして迎えたクリスマス。
イヴはお昼から二人で街に出かけて映画を見た後、互いのプレゼントを買うのに
あっちに行ってこっちに行って、と店を梯子した。

部屋に帰ってくると怜は着替えるとすぐにキッチンに入り浸った。
その様子を見てた篤希はある程度の時間が過ぎると、徐にキッチンの入口へと立って、怜に声をかけた。

「怜?俺も何か手伝おうか?」

「手伝いたい?」

「ん〜…手伝いたいっていうか、ほったらかしよりは一緒に作った方が楽しいかなって」

「あ、そうだね。じゃあ手伝って〜」

そうは言ったものの、既に残っていることと言えばケーキのデコレーションのみだった。

「怜?もうケーキしか残ってないの?」

「うん、そうだよ…篤希、ケーキは作ったことないの?」

「さすがにケーキはないかな…ちっちゃい頃は母さんが作ってくれてはいたけど」

「そっか。じゃあ、初ケーキ作り〜!ってもデコするだけだけど」

楽しそうに言いながら怜は器用にターンテーブルもないのに、ケーキの側面にクリームをぬっていく。
それを横で見ていた篤希はうずうずした我慢の出来ないような顔をして怜とケーキを見比べた。
それに気づいた怜は篤希にやってみる?と声を掛けて、場所を譲った。

「うっわ…これって難しいんだな…」

普段、器用に何でもこなす篤希だったがさすがに初めてするケーキ作りはそうもいかなかった。

「でも篤希は器用だから馴れればすぐに上手になると思うよ?」

「そうかな?」

「うん。あ、そこはクイっとやってね、クイっと」

「いや、その説明じゃわかんねぇよ!」

わいわい言いながらケーキも出来上がり(ほぼ篤希が試行錯誤で作ったため形は微妙に歪だったが)
怜と篤希はイヴのディナーを楽しんだ。



そして、あとはケーキを食べるのみ、となった時、怜は先に使った食器を洗っちゃうと席を立った。
篤希はその姿を見送ると、今日買い物してきた袋の中をガサゴソと漁り何かを取り出した。
テーブルの上をケーキとフォークと飲み物だけに片付けると、袋から取り出したものを並べた。
洗いものを終えて篤希の横に戻ってきた怜がそれに目ざとく気づいた。

「篤希?それ…キャンドル?」

「そう、これだけあればきっとそれなりに明るいでしょ。怜、こっちおいで」

テーブルの上には5つ程、キャンドルが載っていた。
言って篤希は怜の手を引いて、自分の足の間に怜を座らせた。

「怜、はいライター。火つけて」

「うん」

怜が一つずつ、ライターで火を着け始めると、篤希は立ち上がって電気のスイッチのところに立った。
5つ全てに火をつけ終えると篤希は部屋の電気を消し、怜の後ろへと再び座った。
篤希が後ろに座ると、怜は篤希に体重を預けた。
篤希もそんな怜を後ろから抱きしめた。

「…いつ買ってたの?」

「怜のプレゼント買う時一緒にね」

「気づかなかった」

「気づかれないように買ったからね」

クスクス笑ってそういう篤希に怜は少し体をずらして、篤希の胸に顔を埋めた。

「ん?どした、怜」

「んーん。どうもしないけど…篤希の声、安心する」

「そお?」

「うん…あたし暗いの好きじゃないから、きっと一人ならこの明るさでもイヤだと思うけど」

「…俺といれば安心する?」

「うん…」

「俺も怜といるのが一番安心するよ」

「…うん」

怜がギュッと篤希のシャツを握ってきたので、篤希も怜をギュッと抱きしめた。
数秒そうしたのち、篤希は怜に問いかけた。

「ねえ、俺さケーキ食べたいな。食べさせてよ?」

そんな篤希に怜は思わず噴き出した。

「色気より食い気ですか、篤希くんは」

「だって、せっかく作ったのに喰わなかったらもったいないだろ?」

「まぁね?」

「だから、なけなしのムードを得るために食べさせて?って言ったんだけど?」

篤希の言葉に一瞬考えるように動きを止めた怜は、フォークに手を伸ばすと一口大にケーキを切ると
それを自分の口に入れると、篤希に振り返ってキスをした。
そして、口移し、と言わんばかりにケーキを篤希の口に押し入れた。

「この方法でなら、食べさせてあげる」

少し脹れたようにそう言った怜に篤希は苦笑すると、仕方ないな、と言ってそれを受け入れた。
しかし、小さなホールケーキの三分の一をそうして食べ終える頃には、二人とも食い気より色気になっていたのは言うまでもない。


深飛 / 2006年12月17日
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