煌く綺羅の夜 -終章 山間の小さな村で-


朝はやけに冷え込んでいる。
 吐く息が白いのが、何よりも物語っている。
 そう、秋は長くはない。
 きっとすぐに、冬はやってくる。
 この空気を感じれば、簡単に解ることだった。
 鳥が鳴いている。
 そして今日も、宿に客はやって来ない。
 「・・・あ」
 珍しいこともあるものだ。
 手紙が来ている。それも2通。
 こんなところまで手紙を運ぶのは、さぞかし骨が折れただろう、と。
 そんなことを思いながら、由騎夜はそれを手にとった。
 1つを裏返し――――
 「鎧綺!蓮花ちゃん!」
 柄にもなく、大声をあげる。

 蓮花は、白いエプロンをつけて、食堂のテーブルを拭いていた。
 仕事にも慣れてきたのか、その姿は中々、様になっている。
 駆け込んできたのは、由騎夜だった。
 「由騎夜さん、おはようございます。どうか、したんですか?」
 「何だって朝っぱらから大声あげてんだよ・・・寝かせろっての」
 由騎夜が答えるよりも先に割って入った眠たげな鎧綺の声。
 食堂に姿を現して、鎧綺は続けた。
 「・・・手紙?」
 「あぁ。姉貴と・・・ヨーシュから」
 「えぇ!?」
 蓮花は持っていた布をテーブルに置き、由騎夜に駆け寄る。
 鮮やかな天色の封筒には、2人の名前がはっきりと書かれていた。

 棕絽 煌瑚、そして、レイ=ヨーシュ、と。 
   「――な、何て書いてあったんですか!?」
 「あ、いや、…まだ開けてないんだけどね」
 逸る気持ちはよくわかる。
 ――自分も、同じだ。
 由騎夜は封筒を開く。
 2枚。恐らく、1枚ずつ。
 蓮花は、由騎夜の持つ便箋を覗き込むようにして見た。
 そんな2人の間に割って入る度胸もなく、鎧綺は小さく溜息をついた。
 ふと目がいったのは、由騎夜がテーブルにおいた、真っ白な封筒―――もう1通の手紙。
 誰からだろう、と何ともなしに手にとる。
 差出人の名前を見るや否や。
 「――はぁ!?」
 先程の由騎夜よりも、はるかに大きな声で、鎧綺は悲鳴に近い声をあげた。
 「何だ?」
 「鎧綺さん?」
 由騎夜と蓮花は、呆気にとられて鎧綺を見る。

 「蓮花ちゃん・・・いや、むしろ由騎夜?これはどっちに言えばいいんだ?
  むしろ、2人とも目の前にいるんだからあまり関係ないような気もしなくもなく」
 「・・・何、言ってるんだよ」
 「由騎夜、お前こっち見たか?」
 「いや?」
 「激プレミアのようでレアな感じに恐れ多くて頭が混乱するぞ」
 「・・・?」
 訝しげに、渡された封筒を見た由騎夜の顔は、一瞬で蒼白になった。
 「―――――――――はは、・・・・・・本物?直筆?」
 「由騎夜さん、鎧綺さん、どうしちゃったんですか?」
 心配そうに、蓮花は聞いてくる。
 「・・・・・・はい。蓮花ちゃん。君宛・・・」
 「えっ?」
 戸惑いつつも、手紙を受け取る。
 端正な字で書かれた差出人の名前は―――――伽代 駿模。
 歓喜に頬を赤く染めた蓮花と対照的な、青い顔の由騎夜と鎧綺が、その横で佇んでいた。



 そこは山間の小さな村。
 とりたてて珍しいものがあるわけでもなく、たった1軒の宿屋も繁盛しているとは言い難い。
 それでも、そこに住む人々は活気で溢れている。
 その村の名は、杜樂といった。




                               Fin

2010/01/26(past up unknown)


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