煌く綺羅の夜 -第三章 暴風は旅人達と共に- 朝食の後、いつもと同じように鎧綺は仕事へと出かけて行った。 いや、正確にいうと、煌瑚に追い出されたのだ。 4人で朝食をとっていた間中、鎧綺は蓮花に話しかけ続けていた。 蓮花の隣に煌瑚が座って、にこにこ笑いながら、けれど目だけは笑わずに鎧綺をにらんでいたので、不用意なことは何も言えなかったが。 鎧綺が家にいると蓮花の身が危険だと思ったのか、煌瑚は鎧綺が朝食を食べ終えた直後に、 弁当を手に持たせて、家からしめだしたのだ。 「夜までは帰ってこないでね」 天使のような笑顔をうかべ、そう言いながら。 鎧綺が仕事へ出かけてから、煌瑚は蓮花に仕事を一通り教えつつ、 ヨーシュに手伝ってもらい(客なのに・・・)何故か大掃除を始めていた。 煌瑚曰く、 「いつもは大掃除したくても、鎧綺も由騎夜も手伝ってくれないのよ。だから人手があるうちにやっちゃうのよ」 大掃除は午前中いっぱい続いた。 「こ…煌瑚…さん……こんなことを毎日…してるんですか?」 蓮花は、床に座り込み、肩で息をしながら煌湖を見上げた。 「そんなことないわよ。いつもなら、天井裏のそうじとか、家具を移動させてまでのそうじなんて、しないわよ。 今日は少し、人手があったから、ね」 煌瑚はヨーシュを見て言った。 「……それじゃあ、いつも床みがきとか、窓拭きとか、壁紙を変えたりしてるんですか。それも1人で」 ヨーシュは煌瑚を驚きの表情で見つめた。 「まぁ、そうね。でも壁紙を張り替えるのは、月1くらいかしら。でも、今日は人手があったから少し楽だったわね」 煌瑚は、さらりと言った。 ヨーシュと蓮花は、賞賛のまなざしで煌瑚を見つめた。 なにせ、3人の中で一番動いていたにもかかわらず、煌瑚の呼吸はまったく乱れていないのだから。 「それじゃぁ、もうそろそろお昼にしましょ。何が食べたい?」 煌瑚がそう言ったとたん、“ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜”という、誰のだかわからないがお腹の音がなった。 一瞬の沈黙。 「あ・・・・・・そういえば、今、家に何もなかったんだ。買いに行かないといけないわね。れんちゃんは家で休んでていいわよ」 煌瑚はにっこり笑って蓮花に言った。 「わたしは何をしたらよいのかな?」 「買い物のお供をしてもらうわ。そのついでに、村を案内してあげるから」 煌瑚にとっては、客も従業員も区別はないようだった。 煌瑚とヨーシュが買い物に出かけてから、蓮花はぼーっとしていた。 さっきまで、あんなにもにぎやかだったはずなのに、それが嘘のように静かで自分の立てる音だけが、妙に大きく聞こえた。 こういう時にかぎって天紅はいない。 時計の音、自分の足音、自分の胸の鼓動。 ふと気がつくと、蓮花はドアの目の前に立っていた。 「・・・・・・なにやってるんだろ、わたし」 蓮花はため息を吐いた。 すると、突然、ドアが開いた。 「そこがパン屋で、生クリームワッサンが目玉商品わしいけど、あんまりわたしは買わないわ。 それで向こうが本屋。品揃えはよくないけど、頼めば取り寄せてくれるわ。半年かかるけど」 煌瑚は指差しながら案内する。 「それで・・・・・・ねぇ、聞いてる?」 煌瑚は立ち止まり、ヨーシュをみて言った。 ヨーシュのほうが頭1つ分ぐらいは背が高いので、煌瑚は自然と見上げるかたちになるのだが。 今は見上げてもヨーシュの顔は、たくさんの荷物のため見えない。 「え・・・えぇ、聞いてますよ」 ヨーシュは、荷物を落とさないようにバランスをとるのに、苦労している。 「荷物落とさないでね。それで、あっちが・・・」 煌瑚が店の説明をはじめようとした時、小さな石が煌湖にあたった。 見ると…少年が立っていた。少年はまた小さな石を投げてきた。 今度はヨーシュに当たった。 「ばけものは出てけっ!」 煌瑚は、すっと目を細め少年を一瞥すると、歩き出した。 「行きましょ」 ヨーシュは困惑しながらも、煌瑚の後についていった。 少年はもう、石は投げなかった。まるで、煌瑚の瞳に恐怖したかのように。 「今のは、いったい・・・」 「気にしなくていいわ」 ヨーシュの問いに、煌瑚はそっけなく答えると、そのまま黙ってしまった。 2010/01/26(past up unknown) ← → 煌綺羅 TOP |