煌く綺羅の夜 -第十章 祭の夜-


表面上は何事もない一日が過ぎ、そして何事もなく祭り当日はやってきた。

「煌瑚さん、こんなのでいいんですか?」蓮花は言いながら、部屋から出てくる。
広がった両袖と、腰に巻いた帯。
一般に浴衣≠ニ呼ばれるものだが、裾は円舞のため膝丈になっている。
もちろんのこと、浴衣の下は脚衣だ。
煌瑚手作りの蓮花のそれは、淡色の青に蓮の刺繍が施してあった。
「そうね、似合ってるわ」
「…ありがとうございます!」
「いやぁ、本当似合ってる。可愛いよ」
「そ、そうですか…?」
「あんたはどっか行ってなさい」
横から顔をのぞかせた鎧綺を一瞥し、煌瑚は冷たく言い放つ。
「あ、あの煌瑚さん、円舞って・・・」
「れんちゃん、誰かと踊るの?」
「いえ、そうじゃないです!!ただ、どんなのかなーって・・・」
「悪いけど、やったことないから分からないわ」
「じゃあ蓮花ちゃん、俺が・・・・・・」
鎧綺は言いかけたが、冷やかな視線に気づき、自粛する。
「れんちゃん、いますか?」
唐突に外から声が響いた。
「ちーちゃんだ!」
ドアに駆け寄り、開ける。
立っていたのは蓮花と同じく浴衣姿の稚林だった。
深い緑色の浴衣は、誂えたように似合っている。
ただ、長い前髪はそのままである。
「あ・・・っ、皆さんこんに」
「ね、ちーちゃん、ちょっとこっちに来て!」
稚林が言い終わらないうちに、蓮花は手を引いて、出てきた部屋へ入った。

「れんちゃん、どうしたの?」
何事かと慌てながら、稚林はうながされるまま椅子に座る。
「前髪、ちょっといじらせて!」
「えぇっ!?わ、わたしいいよ!!」
「お願い、ちょっとだけ!!」
真顔で頼まれては断る訳にもいかず、稚林はとりあえず蓮花にまかせることにした。

みんなが祭の仕度に気を取られている同じ頃、由騎夜は一人部屋にいた。
ただ何を考えるわけでも、するわけでもなく、ベッドの上に横になって。
目を閉じると鎧綺の言葉がよみがえる・・・。
『お前は蓮花ちゃんが好きだ!可愛くてしょうがないはずだ!』
もう何度、頭の中を行ったり来たりしているか…。
(・・・わかってるさ、本当は・・・。そんな事、アイツに言われなくとも・・・)
由騎夜はコロンと、横を向いた。
(本当は・・・鎧綺よりずっと――――そう、ずっと俺の方が危ない。今だって、この腕で彼女を抱きしめたくてどうしようもない)
そんな事を無意識のうちに思っていた由騎夜だが、突然鳴った音に驚き目を開いた。
「・・・?」
ドアの向こうでシャカシャカ≠ニ鳴っている。
とりあえず、開けてみようとドアに向かい開けてみたはいいものの、そこにはちょこんと天紅がいるだけだった。
「・・・なんだ、犯人はお前か・・・驚かせるなよ。っと、何するんだ?」
天紅は、由騎夜の上衣を引っ張って、部屋の外へ出させようとしている。
「あー、わかった。わかったから、引っ張るなって」
由騎夜は、天紅に促されるままに自室を後にした。
パタン≠ニ空しく響く音を残して―――。

2010/01/27(past up unknown)
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