煌く綺羅の夜 -第十一章 真夜中の静寂- 鎧綺は夜中のうちに宿屋に戻ってきていた。 自分と話していて卒倒した稚林をまたベッドに寝かせ、その顔を数秒見つめたのち、 その額に軽い口づけを残して帰って来たのだった。 もちろん稚林は鎧綺が自分にそんなことをしたなど知るはずがなく 朝起きて鎧綺がいないことに少し悲しい気持ちになったものだ。 (5時半か…眠いな) そう思い目を瞑ってもなかなか寝つけず、鎧綺は窓を開けた。 (う゛…まだ寒いな…体に毒だ) 鎧綺は椅子の背にかけておいた長袖のシャツを着ながら気付けば――――― 稚林のことを考えていた。 (お友達になって下さい!=cか。ほーんと…今までの俺たちって、何だったんだろうなぁ… 俺はそれに…稚林が……。そうなんだろうなぁー。いつからなんだろう…) 窓の桟に腰をかけ、外を見た。 (蓮花ちゃんはどっちかっていうと…妹みたいだったんだな。今考えると…。 あの、馬鹿由騎夜には少し、もったいない気もするけど…それはそれでいいのか…。稚林は俺のことどう思ってるんだろ…) 鎧綺は窓の枠に背を預け、考えているうちに眠りについていた。 由騎夜は四葉との話が終わり、なぜだか、ほっとしていた。 当の四葉は朝食までには戻る≠ニ言って、早朝からどこか散歩にでも出かけていった。 四葉に対しての蟠り(と言っていいかは不明だが)は取れたとは言え、姉とダラムのことが由騎夜を悩ませていた。 今は一人、部屋にいた。 椅子に座り、焦点の定まらない瞳でただぼんやりと机を見ていた。 机の上には…(普段、焼酎しか呑まない由騎夜だが)ウィスキーの瓶がのっていた…。 (俺は…どうすればいいんだ…) コン、コン と不意にノックの音が響いた。 由騎夜は歩み寄り、ドアを開いた。一瞬の間を置いて、声を発したのは――― 蓮花だった。 「おはようございます」 いつかの四葉の時のようなネグリジェ姿ではない。〈そりゃそうだ〉 「蓮花ちゃん……」 由騎夜は何とも間抜けな声を出していたに違いない。 「あの…大丈夫ですか?色々と…」 どうも蓮花は自分を心配してくれているらしい。 由騎夜は、蓮花を部屋の中へ促し、ベッドにでも腰をかけるように示した。 ベッドに腰を下ろした蓮花は机の上にのっている酒の瓶に気づいた。 「お酒…」 由騎夜は「あぁ…」と苦笑めいて答える。 「昨日、なかなか眠れなかったから…。大丈夫、今は飲んでないから」 そういうと自分も蓮花の隣に腰を下ろす。 「煌瑚さん…まだ眠ってますかね?」 「…いや、…起きたと思う…けど…」 「けど?」 「何かがいつもと違うな」 由騎夜はそう言うとうつむいた。 「由騎夜さん?」 蓮花は由騎夜を覗き込むようにして見た。 「彼には…ヨーシュには、ああ言われてしまったけれど、俺や鎧綺が姉貴の…つらい思いに気づいてなかったわけじゃない。 もちろん…今、こうなってしまった以上、彼に責められても仕方がないのかもしれない。けど、何もしなかったわけじゃない。出来なかったんだ! 姉貴はいくら俺達が心配しても弱味を見せるようなことはしなかった。 それは、俺達が姉貴の弟で、本当の心の支えになれないことを充分に姉貴は分かっていたから…。 でも、ヨーシュが来て何となく…あぁ、この人には弱味も見せるんだ…って思った。 そしたら…今まで、必死に俺達が姉貴を守ってやらなくちゃいけないって思っていたのが…空しくなった。 俺や鎧綺には出来なかったこともヨーシュには出来てしまうんだ、って…。姉貴にはヨーシュみたいな人が必要で、俺達じゃ力不足なんだって…」 そう一気に語ると、由騎夜の頬に一筋の涙が溢れた。 蓮花はその涙を見逃しはしなかった…。 「由騎夜さん…煌瑚さんはきっと、二人の気持ちに気づいてくれていたと思いますよ。…だから、泣かないで下さい。 由騎夜さん達は、煌瑚さんの家族じゃないですか。…うまくは言えませんけど、 きっと二人がいてくれただけで煌瑚さんはだいぶ、救われていたと思いますよ」 蓮花はそう言って微笑んだ。 その笑顔が、由騎夜の心の支えとなっていたのは、いつからだろう…。 「ありがとう…蓮花ちゃん」 由騎夜もそう言うと微笑み返した。 それぞれの道が、今、開かれようとしている。 <第11章 終> 2010/01/27(past up unknown) ← → 煌綺羅 TOP |