煌く綺羅の夜 -第十四章 朝に霧の立つ日- 未だ、暗い。 それにも関わらず、目は冴えている。 目を覚ましたのはいつだろう。 自分の意識がはっきりしていることに気付く。 (・・・駄目) もうこれ以上眠ることができないと判断し、蓮花は体の毛布をおろした。 一瞬、体が震える。 (何だろ・・・寒いや) 窓のカーテンを開ける――――白い。 深い青の広がる景色が。淡く白がかっていた。 「あっ・・・・・・これ、霧・・・・・・」 開いた窓から入る空気は、少しだけ冷たい。 杜樂に来て、一体どれだけの時が流れたのだろう。 1ヶ月にすら到底満たない。 ほんのわずかでしかない時間は、だが何故だか、長く感じる。 鳳俊から出る手助けをしてくれた、名も知らぬ旅人。 由騎夜、鎧綺、煌瑚、ヨーシュ。それに、稚林、朱璃、緋耶牙。 自分を受け入れてくれる人に出会うことのできた、この数日間が。 (―――そうだ!) 蓮花は窓を閉め、机に向かい、明かりをつけた。 宿屋の客室用の机だが、引き戸もついており使い勝手は悪くない。 その引き戸から、袋を取り出す。 杜樂に来る前、別の町で買ったものだ。 その中から若葉色の便箋を1枚、抜く。 洋筆を手に取り、それを走らせた。 『 拝啓 伽代 駿模 殿 』 本当は気付いていた。 様々な町や村をまわり、時が流れていくうちに。 『 突然のお手紙、驚かれることと思います。 』 “癒しの力”が、よからぬことを企む人間に狙われているということ。 無力な自分の父と母では、それに対応できないということ。 『 私は今、杜樂という村にいます。小さな村ですが、とてもいいところです 』 守っていてくれたのだ、ということに、気付くのが遅かったのかもしれない。 “鳳俊”に駿模、四葉、自分。 『 私は、17歳になりました。鳳俊を出てから、もう1年が経ったのですね。…どうか、私のことをお許し下さい。 』 何処で擦れ違ってしまったのか。 何が足りなかったのだろう。 『 私は、駿模のおじさんのことを誤解していました。自分のことばかり考えて。 例え、どれ程謝罪しても足りません。 』 恐らくそれは、言葉であったのだろう、そう思う。 だからせめて、自分の精一杯の言葉を伝えたい、と。 『 おじさん、私は今、とても幸せです。杜樂の人達もみんないい人ばかりです。 つい、この間、お兄ちゃんが来ました。その時には色々なことがあったのですが、 それは長くなるのでやめておきます。 お兄ちゃんは、何も言わずにいなくなってしまいました。 』 手が、一瞬止まる。 次の言葉を捜し、躊躇い、そして書く。 『 駿模のおじさん、こんなことは私に関係のないことかもしれませんが、あえて書きます。 お兄ちゃんと、仲直りして下さい。 おじさんと、お兄ちゃんが、擦れ違ったままなのは嫌なんです。 元をたどれば原因は私なのだと思います。だから余計に辛いんです。 でしゃばったことを書いてごめんなさい。 そして、最後に1つだけ――――― 』 蓮花は一文を書き終えて、洋筆を置いた。 便箋と同じ色の封筒に、2枚になった便箋を入れる。 それを机に置いたとき、手が震えていた。 (大丈夫・・・きっと、届く) 手紙と、言葉。 『 私を守っていてくださって、本当にありがとうございました。 私は駿模のおじさんのこと、大好きです。 』 ――秋が、やって来た。 2010/01/26(past up unknown) ← → 煌綺羅 TOP |