DOTING 2 -煌く綺羅の夜- ―――そして夕方。 幸い、傷はそれほど深くなく由騎夜は右手だけで器用に左手に包帯を巻き、 傷を作った張本人の枝都にもう二度とこんなことはしないと約束させてから、午後の仕事を終え、宿屋に戻ったところだった。 さすがに力を使うのは体力の消耗になるから、歩いて帰り 宿屋のドアを開けた直後に飛んできた言葉に、自らの耳を疑った由騎夜だった。 あの鎧綺が・・・ 「すまなかった、稚林を助けてもらって…ケガしたなんて」 と言ったのだ。 これには、由騎夜だけではなく、蓮花と稚林もあからさまに驚いていた。 「いゃ…別に、たいしたケガでもないし…。稚林ちゃんにケガがなくてなによりだけど」 「まじ…悪かったな」 「・・・もういいって。それより。緋耶牙のとこまで、とばしてくれないか?」 「緋耶牙のとこまで?いいけど…」 「あぁ。二人が来る前に話があるって来たんだけど…二人が来るって言ったら、終わったら店にって」 「由騎夜さん!?その傷でお酒飲んだらダメですよ!!」 「あー、…わかってるよ?」 「なんなら蓮花ちゃんもついていけば?」 「えっ?」 「俺と稚林で留守番してるから…由騎夜のこと心配です、って顔に書いてあるよ?」 鎧綺にそう言われて、蓮花は顔を赤くした。 「一緒にくるかい?」 そんな蓮花の様子を見た由騎夜が笑顔で声をかける。 「いいんですか?行っても…」 「大丈夫だと思うよ?」 「じゃあ、行きます!」 そうして、由騎夜と蓮花は鎧綺に緋耶牙の所へと、とばしてもらった。 「ったく…どうして、そうお前はお人よしなんだ?そんなケガして・・・」 「仕方ないだろ、じゃないと稚林ちゃんがケガしてた」 「それに、今日に限って蓮花ちゃんまで連れて来て・・・」 「あの…緋耶牙さん、私邪魔でしたら…」 そう蓮花が泣きそうな声で言ったので、由騎夜は緋耶牙を睨んだ。 「あ、いや、邪魔っていうか…ちょっと恥ずかしいことを話そうとしてたからさ…いても問題はないんだけどね、うん…蓮花ちゃん次第だな。じゃ、由騎夜…いつもので」 緋耶牙が言いかけた言葉を由騎夜は、非日常的にも遮った。 「いや、今日は飲まないよ」 「どうしたんだ?」 「傷に障ったら困るからな」 「あぁ…そうだな、蓮花ちゃんも心配するしな!」 「そういうことだ」 そう言われ、蓮花は由騎夜の方を見た。由騎夜は、そんな蓮花に優しく微笑みかけた。 「で、話って?」 ここで、ようやく本題を思い出したかのように由騎夜が訊ねた。 「あぁ…うん。それが…」 緋耶牙のいつものように歯切れがよい返事ではないことに、疑問を感じ 「何だ?らしくないぞ。はっきり言ったらどうだ?」 「うーん、じゃあ…言うけどよ?その・・・好きな子として・・・いや、居る時に・・・」 由騎夜は視線だけでその先を促す。 「出来ないことってあるもんなのか?」 「・・(きっかり5秒)・・は?」 「いや、だから、その、アレをだ!!」 「・・・・・」 「何で黙るんだよ!!」 「だって…それこそ、お前らしくない。鎧綺より女泣かせのお前にも…、そんなことあるのか?」 「由騎夜!お前な!女泣かせって!」 「ほんとのことだろ?」 「う゛……でも、お前は蓮花ちゃんに対してそういうことあるか?」 「えっ!?俺??俺は・・・」 「どうなんだ?」 由騎夜は何ともなしに、蓮花をチラッと見たが・・・ 「…寝てる…」 蓮花はすやすやと由騎夜の肩にもたれながら眠っていた。 「本当だな…って、どうなんだ?あんのか、ないのか!?」 「あるのか、ないのか、って言われてもなぁ…う〜んと…」 「なんだ、はっきりしねーなぁ。は!まさか…?」 「…ああ、たぶん思ってることで、九割がた当たってる」 「まじか!?」 「あぁ。…まだ、そういう意味では一度も寝てない」 「嘘だろ・・・」 「・・・俺のことはいいんだよ。それより。お前の話だけど…精神的に疲れてる日とかに出来ないこと、多いんじゃないのか?」 「あぁ、そうだ。よくわかったな」 「肉体的にはないだろ。まだ19なんだから」 「そうだよな…で、お前は…女の抱き方しらないなんて言わないよな?」 「それはない(即答)」 「じゃあ、何でまだ抱いてないんだ?もう半年以上経つだろ?あ…」 「ん?」 「まだキスもしてないとか…言わないよな?」 「それは、ない・・・」 「だよな、うん。いくら蓮花ちゃんが相手でも。うん」 「いや、してない」 「はあ!!??な…お前、本当に男か?」 「男だよ。俺のどこが女に見える」 「顔だけなら見えなくもないぞ(即答)」 「おいッ!(怒)」 「落ち着け!でも…何で一つもホントに手、出してねーわけ?」 「それは…(チラッと蓮花を見て)あんまりってか、全然そういうこと知らなさそうだし…彼(四葉)にも…大切にするって言ったし (実際には心の中でだけど)、俺的にもゆっくりでいいかなぁ。って。ま、焦っても仕方ないだろ?こういうことはさ。」 「お前は、どこまでマイペースっていうか…寛大なんだよ(男泣)」 「いいだろ…別に。お前じゃないんだから。それより、もしあれだったら栄養剤みたいなもん調合するけど?」 「あぁ、頼む」 「わかった。いつとりにくる?」 「最近忙しいからなぁ。来週くらいまでに頼めるか?」 「了解。・・・で?他にもあんだろ?」 「は?」 「だって、それだけなら診療所でも言えるだろ。店にまで呼ぶんだ。他にもあるんだろ?」 「…さすがだな。そこまで、わかってんのな」 「当たり前だ。何年、友人をしてると思ってるんだ」 「だよな(笑)それがさ、実は親父がもう引退するかな、って言ってんだ。それで、どうしようかと・・・」 「なんだ?継がないのか?」 「いや、俺的には先に朱璃と一緒になっておきたいなぁー…って思ってて。それでさ?内輪で式を挙げるとしたら仲人っぽいものしてくんね!?」 「は!?なんで俺!?」 「お前だろ?俺らのことくっつけたの。」 「いや…あれは…」 「それに、俺ら二人のコトを一番わかってるのはお前だし」 「…あの…さ?俺が口下手なの、わかってるよな?」 「もちろん。でも、頼まれたことを断れないってことも、わかってるし」 ニヤッと笑った緋耶牙を見て、由騎夜が(こいつ…確信犯だ)と思ったのは言うまでもない。 「ま、話はこれだけだ。さて。どうする?帰るか?飲んでいくか?」 「飲んでいきたいのは山々だけど、彼女がいるから」 と、由騎夜は蓮花を見て言った。 「…よく、寝てるな」 「あぁ。でもいいよ。とんで帰るし。」 そう言うと、由騎夜は包帯の巻いてある左手をかばいながら、蓮花をお姫様抱っこした。 「・・ん・・」 一瞬起きるかとも思ったが、蓮花は由騎夜の腕の中でスヤスヤと眠っている。 「じゃ、帰るな。おやすみ」 「ああ。送り狼になるなよ(笑)」 「ならないよ」 そう言うと、由騎夜は一瞬にして緋耶牙のもとを後にした。 2010/01/25(past up unknown) ← → 煌綺羅 TOP |