Lighted Darkness
 -under children〜暗い陽の下の子供〜-



「…まぁ、いい」
その後、2人とも無言だった。
サラはやはり、世話しなく動くイゼルの視線が気になったがあえて何も言わなかった。
そして25分後。
とある路地の十字路に差し掛かり、サラが口を開いた。
「すぐ、そこだ…もう、いい」
言われてイゼルは右角の2軒目に『Lacste』という文字を認める。
「でも、送ってくれた礼だ…軽く飲んでいかないか?」
サラにしては珍しく、自分から声をかけた。
もちろん、それが珍しいことだなんてイゼルは知らないが
断る理由もないので、少し飲んでいくことにした。


店の中は落ちついた雰囲気だった。
常連らしき数人の男たちが所々に座り、飲んでいた。
「サラ…どうした、今日は来る日じゃないだろ…ん?」
Lacsteのマスター、ゲイル・ショールズはサラが男を連れてきたコトに目を見張った。そして…
「その包帯はどうしたんだ?」
目ざとく、包帯を見つける。
「ちょっとな。…適当に座ってくれ」
サラはイゼルに席をすすめるとカウンターの向こうに入り、
壁にかけてあったベストと丈の短いエプロンをつけた。
何を始めるのか?と思ったイゼルにサラはおもむろに尋ねる。
「…あまり強くない方がよさそうだな?」
「ん?」
サラは勝手にそう判断し、後ろにある棚から何本かのボトルを取り出す。
そして、シェイカーに目分量でそれらを注ぎ、蓋をしてからシャカシャカと混ぜた。手慣れている。
グラスに注がれたそれは、薄いオレンジ色した飲み物へと変化していた。
サラはそのグラスをイゼルの前へと差し出した。
「特製のリキュールだ。…今日の礼だ」
「サラ…客に対して、その口調じゃダメだと何度言えばわかるんだ?」
ゲイルが軽くサラをたしなめてから、イゼルに向き直る。
「ずまねぇな、姪っ子が」
イゼルは、マスターも…と思いつつ笑顔で答える。
「いえ、構いませんよ」
「てか、お客さん、ここに来るのは初めてだろ。ゆっくりしていってくれや。何もねぇがな」
そう言って少々、威厳のある顔つきのマスター・ゲイルはニカッと笑った。
と、そこへ窓際で飲んでいた一人の男がカウンターのサラの所にやって来た。
「よぉ!久しぶりだな、サラ!」
「あぁ、アーリ。ほんとだ、ここのところ見なかったけど、どうしてたんだ?」
「ちょっとな。色々あって…久しぶりに歌が聴きたいんだけど…」
「ん…ゲイル?」
「構わん」
「じゃあ、一曲だけ…何がいいんだ?」
「サラが好きなのでいい」
「わかった…」
そう言うと、サラはシャツのボタンを一つ外した。
そして軽く息を吸い込む。

  天使が羽をなくしたら キミの容貌スガタをしているだろう
   悪魔に声を与えたら  キミの名前を騙るだろう 

その声は高くもなく低くもない。
だが、快く耳に残るモノだった。イゼルは、どこかで同じような歌を聴いた気がしたが、
それがいつどこでのものかはすぐに思い出せなかった。
  そして、サラは無心で歌っていた。
好きな曲でいいと言われたから、姉と小さい頃に意味もわからずに歌っていたこの曲を、咄嗟に口に出していた。
いつからか、姉が家に戻らなくなり自分としか会わなくなった。
そして、何の連絡もないまま姿を消し、後から亡くなったと聞いたことを思い出しながら…。
歌い終わるのと同時に、客が一人入ってきた。
歳はまだ若い。二十代後半のゲルマン系の男だった。

20100122(20060204) writer 深飛


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