Lighted Darkness
 −over children/under adult 〜早熟な若者たち〜−



数時間後、太陽が暗い空を照らし始めた。

開けっぱなしの窓に、柔らかい朝日の断片が降りた時、イゼルは目を覚ました。
別に少し明るくなったから起きたのではない。サイドテーブルの懐中時計は三時半近くを知らせてきている。
枕にうつぶせたままそのことを確認したイゼルは、億劫そうに身を起こし、いつも・・・ のように部屋のどこかにあるはずの衣服を探し始めた。
熟睡できる時は下着一丁で眠るという江戸っ子的な習慣を持つ彼は、銃を片手に部屋をうろつき始める。
机・イス・窓際・床、のお決まりコースで探したが、見つからなかった。
はて、と首を傾げて記憶を探り始めたイゼルが向かった先は、浴室だった。
風呂に入った後、タオルを羽織って二階寝室に上がったようだ。そのことを裏づけるかのように部屋にはタオルがあったし、浴室にも服があった。
それらを身につけて、イゼルは小さな裏庭に出た。毎朝そこで愛銃の手入れと抜き撃ちの練習をすることも彼の日課である。
朝のおつとめ・・・・ を終えて朝食をとろうとしたのが、六時近く。
今日こんにち の来客一人目は、この時に来た。
表のドアのノックがせわしなく鳴り続けたので仕方なく(オイ)イゼルは対応に出た。
急患だったらどうするんだ、ということもあるが彼はその区別はちゃんと心得ている。
窓の外を見やると二人の男がいるようである。
「朝から早くに失礼しますが、ヘインズ医師ですね?」
ドアを開けたと同時に二人のうち一人の男が言う。イゼルは黙って頷く。
「我々は警察です。至急ご同行願いたい」
「どういう意味です?」丁寧な口調でイゼルが問うと、男は重々しい様子で告げる。
「殺人です。あなたに検視をして頂きたい」
ため息をおし隠してイゼルは了承した。それから、あることを思いつく。
「現場はどちらの方ですか?」
警察の男が言った場所の名を聞いて、イゼルは内心呆れ笑いをした。
―――知らないこととはいえ、こうも犯人に検視を依頼する警察も可哀想だ、と。

「被害者は5人。全員が男です」
言いながら、並べられた五つの白い布がかぶさった死体を示すのは、ミラ警部。
挨拶もほどほどにイゼルは朝っぱらから死体をつぶさに見つめなければならぬ自分にうんざりしていた。そんな感情も押し殺して無表情に告げる。
「では拝見します」
ぱらりと布をめくって現れたのは首なし死体。切断面は綺麗に見えている。
「何で切ったんですかね…」
「あれでしょうな」ミラの言葉に従って見てみると、すぐ近くの骨董品アンティーク 屋(らしき)が目に入る。店のはずだが、看板が見当たらない。
「看板、ですか」
「えぇ、わざわざ取りはずしたのか、と思ったんですが…どうも強引にもぎ取ったようで。何せとめ具が壊れてましてねぇ…」
「……それは、また…大変な怪力の持ち主、ですね」
「えぇ、馬鹿力です。人間とは思えない」
「ですが…人間なんですよね、きっと」
我ながら、途方のない間抜けなことをしたらしい――イゼルは思った。
「ドクター、朝食は済ませましたか?」
唐突な警部の言葉にイゼルは目を丸くした。ミラは苦笑しながら言う。
「まだでしたら、死体の検分は後日になさるといい。ひどい死体もの が多いんですよ、今回も・・・
「……では、お言葉に甘えて」
布をもどす前に、イゼルはふと考えついた。
「警部。私は彼と…いや、彼らと知り合いかもしれない」
「?どういうことです?」
「昨晩、ある孤児院に強盗が押し入ったんです。人数は……5人」
警部の顔がすっと引き締められた。それから、彼は告げる。
「ぜひ詳しい話を聞きたいものです」

イゼルとミラ警部が聖リグー孤児院に来たのは八時頃。
シスター・エレンは突然の来訪には驚いたものの、事情を聞くと悲しげに呟いた。
「まぁ……なんて惨いことを…一体、誰がそんな…」
俺です、など言えるはずもなくイゼルはミラが話すのにまかせていた。
「この服に見覚えはありますか?」
ミラが取り出したのは、新聞紙に包んであった、死体の衣服だった。
比較的血のついていないものである。シスターはふう、とため息をつく。
「見た…ような気もしますが……すみません。はっきりとは…動転していたものですから。…あっ」
「どうなさいましたか?」と警部。
「サラなら…」呟いたものの、エリオッティは首を振った。
「若い女性に見せるようなものではありませんでしたね…どうしましょう」


20100208(20060206) writer 相棒・竜帝


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