Lighted Darkness
 −strange visitors−



サラが警察の協力をしてから三日後――イゼルに声をかけられてから三日後。
サラはいつものように、ラコステに来て仕事をしていた。
昨日も今日も店に、イゼルやロバートの姿はなかった、が――。

カラン、カラン――
「いらっしゃい」
ゲイルの低い声が店内に響く。
入ってきたのは、見慣れない長身の男。それも全身、黒一色である。
男は入って来てまっすぐカウンター席に向かい、サラの前に座る。
「――いらっしゃい」
サラが静かに言う。
「スティンガー」
サラは言われたものを作る。そして、男の前に置く。
「おまたせしました」
「嬢ちゃん……、美人だな」
男は突然サラに話しかける。話しかけられたサラは
「………いえ」
短いが珍しく応えていた。その様子を横目で見ていたゲイルが声をかけた。
「おまえさん、見かけない顔だが最近ここらへ来たのか?」
「いや、もうだいぶ経つがこの辺りに来るのが初めてなだけだ」
「そうか…、まぁゆっくりしていってくれ」
「あぁ。ところで…この は娘か?」
「いや、死んだ兄貴の娘だ。手伝いに来てくれてるんだ」
「ゲイル…」
サラが呆れたようにつぶやく。余計な事は言わなくていい、という意味だろう。
「あんた、名前は?」
またしても突然、男はサラに声をかける。
サラは少し目を細めて警戒しながら男の方を見た。
「俺はカルロス。で、あんたは?」
「…サラ」
サラはぼそりと言う。男――カルロスは、満足気に言う。
「サラ、か…合ってるな、名前。俺は、美人にしか名前聴かないんだぜ」
さも、自分はモテます、と言っている男にサラは何の反応も示さない。
「おい、おい、冷てーなぁ。こんなイイ男がかまってるのに」
カルロスは笑って言う。
「あまり男に興味なくてな」
とゲイルが教える。
それを聞いたカルロスは、おもしろいものを見つけた子供のように目を光らせる。
「へぇー…そりゃあ、いい」
サラはカルロスが口の端を軽く上げて笑ったのを見逃さなかった。
(…コイツ…嫌だ)
サラは本能的にそう感じたが、何も言わなかった。

そして、結局、その日は朝まで――サラの仕事が終わるまで、
男、カルロスはラコステで飲んでいた。

何となく、家に帰ると言えば男が送っていくと言い出すような気がして
サラはその日の日中は家に帰らずに、ラコステから真っ直ぐ孤児院へと足を運んでいた。
「傷の具合はどぉ?」
シスターがサラに紅茶を出しながら尋ねた。
「もう大丈夫です。ご心配おかけしてすみませんでした」
サラは深々と頭を下げた。
「まぁ、サラ!頭をあげて。あの時、あなたがいてくれなかったら私達はどうなっていたコトか。感謝してますよ、ありがとう」
とシスターは暖かい優しい笑みをサラに向ける。
そこへ――。
「サラァ?」
とシリィがドアから顔をのぞかせた。それに気づいたサラは優しく声をかける。
「シリィ…おいで」
シリィは走ってきて、座っているサラに抱きつく。そんなシリィをサラは抱きしめる。
「もう、頭のケガは大丈夫?」
「大丈夫だよ、ありがとう、シリィ」
「よかったぁ」
と、シリィは天使のような笑みをサラに向けた。
「ところで…シリィ?」
「なぁに?」
「イゼル先生とは…どんな関係なの?」
サラにしては、かなり珍しく無粋な質問をしていた。
「ん?イゼル先生?」
と、シリィは目をぱちくりさせてサラを見た。そして何を思ったのかサラの耳元で
「サラでもダメだよ。お兄ちゃんは、シリィの未来のお婿さんだからvこれは内緒ね」
とまるで内緒話をするかのように嬉しそうにそう言った。

「サラ!!」

その時、突然、大きな声がサラの名前を呼んだ。
シリィは何事かと思ってサラから離れてドアの方を向いた。
「ジャン…どうしたんだ?そんなに慌てて」
「ケガは大丈夫なのか?」
「あぁ…あと、二、三日もすればガーゼもとれる」
「そうか…よかった。あまり心配させるな」
「悪かったな、すまない」
心配そうな顔をしてサラを見るジャンと、困ったような顔をしてジャンを見るサラを交互に見やり、シリィは口を開いた。
「ジャン先生とサラって仲良しなの?」
「幼なじみなんだよ」
サラがシリィの頭を撫でながら答えた。
ジャンが辛そうな顔をしていることなんて知らずに。

その後、サラは孤児院で仮眠を取らせてもらい、夕食までも孤児院の皆と一緒に食べ、またラコステへと戻っていた。
ジャンはラコステまで送ると言ったが、サラは仕事があるだろ、と断った。
そして、今日は昨日のカルロスとかいう煩いのは来ないだろうと思っていたのだが…
「よぉ、サラ。今夜も来てやったぜ?」
と、満面の笑みを湛えてやってきた。常連の他の客も、何だコイツは、と思っているような目つきで見ていたが、
カルロスが長身で全身黒づくめということもあり、誰も何も言わなかった。
「…いらっしゃい」
サラは内心、また来たのか、と嫌悪感を抱いたが、無口無表情が好をそうして、表面上はいつもと変わらなかった。
「今日は…じゃ、シャルトルーズ」
一応、注文するから相手にしている、といった感じで
サラは注文されたものを『どうぞ』とカルロスを見ずに差し出す。
カルロスは苦笑気味に言った。
「誰もとって食いはしねぇから、そう固くなるなよ」
サラはチラッとカルロスを見るだけだった。

一方、この夜、この男が動いていた…。


20100215(20060213) writer 深飛


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