Lighted Darkness −strange visitors− 悲しげに訴えるロバートを振りかえったサラは控えめに苦笑する、と、ビシッと小気味良い音を立てて、イゼルがロバートの鼻を打った。 「い゛っ!」 「酔っぱらいはお構いなく。常連に冷たくするのはよくないでしょう?」 「おいっっっ!俺だって常連だぞ!?」 「お前は冷たくされたって来るだろう」 「あぁ、それっぽいな」 「おいおい、二人共なあ・・・」 鼻をさすりながら脱力するロバートとそれを当然のように受け流すイゼルから離れて、サラは今度こそカルロスの方へ行く。 少々名残惜しく感じながら。 「よう、サラ」 手を挙げてカルロスは笑いかけてきた。 「あぁ・・・今日は?」 「まかせる。で、あのおめでたいドイツ人とその連れは?」 「ロバートはドイツ人じゃねぇぞ。生粋のイギリス人って訳でもないがな」 と、ゲイルが口をはさむ。 「奴はうちの常連でな。隣にいるのはその親友、だそうだ・・・といっても勝手にロバートの奴がそう思ってるだけかもな!」 最後の方は声のトーンを抑えてゲイルは言った。その顔には子どものような邪気のない笑みが広がっている。 彼が他の客のところへ行って、いなくなってから、サラは吐息まじりに言う。 「ロバートはゲイルに気に入られてるんだ」 「みたいだな・・・で、サラは?」 「わたし、は・・・」 一瞬考えてから、サラは答える。 「・・・嫌いじゃない」 「なんだそりゃ」 カルロスは拍子抜けしたような顔をしてから、笑った。 「オイッ!行っちゃったぞ?」 「仕事だからな」 さらりと受け流すイゼルに、ロバートは何故かいつもより噛みつく。 「おいおい、このままあのいけ好かねぇラテン野郎に俺らのサラが取られ」 「お前と同じドイツ系だろう」 「一緒にすんなッ。俺のこの吹出物一つない滑らかな肌を見ろ!」 「肌の色はそうかもしれないが、アクセントはドイツ系だ」 淀みなく告げられる愛想もない、イゼルの返答はロバートの肩の力を一気に抜けたさせた。 「・・・お前、本当にその肌の下あったかい赤色の血とか流れてんのか?」 「触診してみるか?それとも首をかっ切ってみせようか?」 眉一つ動かさずにイゼルが答える。ロバートは目を丸くしてから、慌てて手を振ってみせる。 「い、いや、いい。触診なんて、男の肌さすっても何も楽しくない」 「・・・じゃあ何故照れてるのか訊いてもいいか?」 「まあ、それは置いといてだな」 小箱を横によけるジェスチャーをしたロバートだったが、その視線はしっかりと逸れていた。 「最近、この辺りに飼い犬が放たれたらしいぜ」 "飼い犬"の言葉にイゼルの目が細められる。彼は低く呟く。 「・・・悪い飼い主だな」 「だろ?」 ロバートの相槌に、さらにイゼルの眉間が一瞬険しくなった。が、それもほんの一瞬である。 二人の間で"犬"は"殺し屋"のことを示す隠語であり、中でも"飼い犬"は組織に雇われた殺し屋のことを示している。 「何だか、ずいぶん気に入られてるんだな。あの二人に」 「・・・そうか?」 「あぁ。俺から見たら、大事なサラが俺のところへ来て、喰われやしないかハラハラしてるように見えるぜ」 "――大事なサラ――"という言葉にサラは内心、反応しながら 「・・・有り得ない」 と、差も何でもないかのような反応を見せる。 「まあ、今はまだわからなくてもいいさ」 と、カルロスは年長者の余裕なのか、乾いた笑いを帯びた声で言った。 その時、カルロスが上着の内ポケットから十センチ四方の紙切れを取り出した。 「サラ?」 呼ばれたサラは、洗い物をしていた手を止め、目を向ける。 「ちょっと」 と言いながら、カルロスは右手の人差し指をクイ、クイと動かしサラを呼ぶ。 サラが手を拭きカルロスに近づいて行くのを、ロバートが遠目に見ていた。 「おい!イゼル、俺たちのサラが喰われちまうぞ!?」 イゼルは、ちらりとカルロスとサラを見る。ふと、違和感を感じた。 (・・・あいつ・・・殺し屋か・・・?) "まさかな――"と、思いつつロバートに言っておく。 「あの男・・・調べといてくれ・・・」 「??わかった」 何の反応も示すことのなかったイゼルに疑問を感じつつ、イゼルの言うことは絶対的に的を得るので素直にロバートは従った。 20100215(20060621) writer 相棒・竜帝/深飛 ← → LD TOP |