Lighted Darkness −contact point− セクハラ事件≠ゥら二日後。日曜日。 サラの日課、孤児院でのパン作り≠フ日。今日もいつもと変わらず、野菜を持って孤児院へとやって来ていた。 「まあ、サラさん、今日もこんなにたくさん!ありがとうございます」 女性職員の一人が、籠に入ったたくさんの野菜を見てお礼を述べている。 「いえ・・・」 そこへ、シリィが例の桃色のワンピース≠着て走ってきた。 「サラっ!!」 今日もいつもの如くタックル・・・ではなく、少し手前で止まり、回ってみせた。 「どう?可愛い?」 「あら?シリィ、素敵なワンピースね。どうしたの?それ」 「サラが作ってくれたの!ね、サラ!」 サラは微笑んで、シリィの頭を撫でながら 「よかった、似合ってる」 と囁いた。 パン作りが終わって、シスターとサラがお茶を飲んでいるところに彼≠ェやって来た。 「こんにちは、シスター・・・とサラ」 「あら、ドクター。今日はどうなさったのですか」 穏やかに返すシスターに対し、サラは軽く目礼をしただけだった。 「いえ、近くに用があって来ていたもので」 「そうですか。あ!ちょっと用事を忘れておりましたわ。ドクター、お茶を淹れますからサラとでもお話していて下さい。すぐに戻りますわ」 と、シスターはお茶を淹れ部屋を出ていってしまった。 残されたイゼルはとりあえず、ソファに座ってお茶を飲む。暫くの沈黙ののち、声をかけたのは・・・意外にもサラだった。 「・・・シリィには会ったか?」 「いえ、まだ・・・こちらへ来る途中に声は聞きましたが」 思い出し笑いなのか、口元は隠したもののイゼルは可笑しそうに笑う。 「何だかはしゃいでいるのはわかりました」 「・・・会わないのか?」 少し意外そうな口調でサラは訊く。笑顔に少し苦いものを含ませてイゼルは答えた。珍しく言葉を探している様子である。 「えぇ・・・今日は、・・・会わない方がいいかもしれない、と・・・」 「・・・シリィはあなたに会いたいと思う」 サラの言葉にイゼルは困惑したような、或いは言おうか迷っているような顔をしてから、言った。 「まぁ、利己的ですが・・・私個人の気持ち、ですから」 間を置き、 「昨日の夜に、実家から声がかかったんです。オックスフォードなんですが」 「・・・・・・で?」 「出発は今夜。で、明日シリィと約束をしてまして・・・」 「どんな」 「家に泊まりに来るという・・・・・・・・・」 「なんだ」 「・・・なんだ、って・・・」 小首を傾げてイゼルは無言で訊く。 「まかせろ」 「・・・何を?」 端的そのもののサラの言葉に思わずイゼルは声に出して訊いていた。 「シリィなら・・・うちに来ればいい」 「・・え、いや、でも・・・迷惑では?」 「いや」 きっぱりとしたサラの言葉に、イゼルは黙って考えこむ。 数秒間黙った後、彼は顔を上げた。 「そうですね・・・その方がいい」 ようやく納得したようなイゼルに、サラは内心眉をひそめた。 「Dr.・・・」 「はい。過保護ですか?」 思っていたことを当てたれたが、サラは別に気にもとめなかった。 「ここだけの話にして下さい。絶対に」 「わかった」 「私は・・・彼女の両親を知っています。特に母親のことは」 静かな告白だった。 それでもサラが言葉を失うのには十二分な内容だった。 「シリィには言わないで下さい。あの子に会わせることはできませんし、会ったとしても、シリィのことがわる状態ではないんです」 「どういうこと・・・なんだ?」 「医者としての見解です」 イゼルはそう告げてから、昏い微笑を浮かべる。 「今、言えるのはここまでです。納得して頂けましたか?」 「・・・本当なのか?」 他にも言いたいことがあったが、サラが口に出したのはそれだけだった。 すると、イゼルは明るい笑顔にぱっと変わった。 「いえ、信じなくても結構ですよ。ただ、単なる幼児趣味の変態に思われたら嫌なので」 「・・・・・・思ってない」 何だか拍子抜けしつつ、サラが言うと、イゼルは席を唐突に立った。 真っ直ぐに窓に向かった彼はおもむろに鍵を外して窓を開ける。 「それでは、私はこれで失礼します」 「そこから帰るのか・・・?」 「ええ、まあ」と言葉を濁すイゼルだった。 「・・・変態とは、思わないけれど」 窓に向かいながら、サラは呟く。 「あなたは変わってる・・・と思う」 一瞬目を丸くしてから、イゼルは笑う。 「自覚はしてますよ」 そう告げて彼は窓から飛び降りた。 数秒後、シスターが戻ってきた。 「あら?ドクターは」 「帰りましたよ、用事があるみたいで」 もちろん、サラは窓を指差してそこから、とは言わなかったが。 「あら、それは残念ね」とシスターは本当に残念そうに零した。 (・・・変な人だ、ドクターは) とサラがその横で思っていたのをシスターは知る由もないが。 「シスター?シリィは今何処に?」 「きっと自分の部屋にいると思いますよ」 「わかりました・・・それと」 「何でしょう」とシスターは人の良い優しい笑みを浮かべる。 「シリィに外泊許可が出ていたと思うのですが・・・行き先を私のところに変更をお願いできますか?」 「ええ、構いませんよ、じゃあ、書き変えてこなくちゃね」 とまた部屋を出ていくシスターと共にサラもシリィの部屋に行くためにそこを後にした。 20110221(20060623) writer 深飛/竜帝 四章開始。 ← → LD TOP |